1000台のデバイスを同時に通信接続! 日本発の最新通信規格がIoT社会を改革する
2021年2月7日 16:25
株式会社矢野経済研究所が1月7日に発表した「IoT/M2M市場に関する調査(2020年)」結果によると、2019年度の国内M2M市場(Machine to Machine通信)は前年度比4.5%増の2100億円。新型コロナウイルスの影響で2019年度第4四半期以降、 2020年度も伸びが鈍化しており、前年度比1.0%増にとどまる見込みだが、2020年度下期に入ってからは新規受注も戻りはじめており、プラス成長の維持が見込めるという。また、2021年度以降も同様の市場環境が続き、拡大基調が継続すると見ている。
便利で快適な家電の普及によって、普段の生活の中でも急速に身近なものとなってきたIoT。家庭内だけでなく、スマートシティやスマートグリッドなどの大規模な公共インフラネットワークや、工場などの産業設備への導入も着実に進んでいる。そんな広範囲をカバーするIoT社会の実現に欠かせない通信方法として注目されているのが「LPWA」だ。一般的にはまだまだ聞き慣れない言葉かもしれないが、LPWAとはLow Power Wide Areaの略語で、その名の通り、消費電力を抑えて遠距離通信を実現する技術なのだ。ロンドンに本部を置く、移動体通信事業者や関連企業からなる業界団体GSMアソシエーションも、2022年頃には50億台に上るデバイスでLPWAが使用されると予測しており、今後、世界規模で需要が拡大するのは間違いないだろう。
LPWAは、お馴染みのWi-FiやLTEなどに比べると通信速度が遅く、通信可能なデータ容量も少ないが、IoTに限ってはそれらは大きな問題ではない。遠方のモノや現場の状況をデジタル化して送信するだけだから、LTEのような高速大容量通信は不要で、長距離通信と低消費電力が重要となる。今後、デバイスを広範囲に配置しセンシングをするケースが大幅に増えることが想定されるが、電源が確保できない屋外環境などでは、小さなバッテリーや乾電池からの給電で長期稼働が可能なLPWAに対する期待が高まっているわけだ。
しかし、LPWAにも弱点が無いわけではない。日本では、LoRaWAN、Sigfox、NB-IoT(LTE)などのLPWA通信規格が広く採用されているが、とくに屋外での大規模な通信ネットワークシステムの環境下では、通信コストの上昇のほか、環境の変化に弱いため、通信速度の低下や通信障害が発生してしまうという課題が指摘されていた。
そんな中、従来のLPWAの課題を解決する通信規格として注目されているのが「Wi-SUN FAN(Field Area Network)」だ。Wi-SUN FANは、京都大学大学院情報学研究科の原田教授の研究グループとローム 、日新システムズが共同で開発したIoT向け新国際無線通信の最新規格で、他のLPWAと比較して、通信コストが不要で、環境の変化に起因する通信障害が発生しても、マルチホップ通信により自動で電波状況を見て接続先を切り替えることができる高い信頼性を備えているものだ。 スマートシティやスマートグリッドで必要となる大規模メッシュネットワークを構築できる通信技術として期待されている。
今年1月、ロームは、業界初の1000台のメッシュネットワークを構築可能な「Wi-SUN FAN」対応モジュールソリューションの提供開始を発表したことで各ニュースメディアにも大きく取り上げられたので、記憶に新しいかもしれない。
この「Wi-SUN FAN」対応モジュールソリューションは、 15.0mm × 19.0mmという超小型の無線通信モジュールを用いて構成されるもので、最大1000台まで同時接続が可能だ。これを信号機や街路灯などの社会インフラに実装すれば、都市全体をカバーする遠隔管理システムの構築も容易となる。加えて、Wi-SUN FANで必要なセキュリティ機能を全て内蔵しているため、複雑な制御も必要なく、簡単に安全な通信を行うことができるので、スマートシティやスマートグリッドの普及も加速するだろう。
また、基地局不要で大規模メッシュネットワークを構築できるWi-SUN FANは、公衆のインフラだけでなく、様々な用途が見込めそうだ。例えば、スタートアップ企業がこれを利用して、新しいビジネスを生み出すことも大いに期待できるのではないだろうか。IoTは、まだまだ大きな可能性を秘めていそうだ。(編集担当:藤原伊織)