死語になった自動車用語「オーバーヒート」
2021年1月28日 09:17
この寒中に、少し暑苦しいネタも面白いかも~と、「オーバーヒート」を採り上げてみた。
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「オーバーヒート」は、死語にこそなっていないが、最近これが原因で、路上でストップしているのを見かける事が極めて少なくなった。
意味は文字通り、エンジンの過剰加熱である。その結果は、水温が適温に下がるまで、しばし路肩でストップする羽目になる。
●昔流行った観光登山道路「ドライブウエィ」
昔は、各地にあった「ドライブウエィ」とか呼ばれた有料道路、観光用の登山道では、頂上に到達する前に「オーバーヒート」で路肩に停車し、エンジンフードを開けてラジエターから蒸気が噴出している車を結構見かけたものだ。
少し無理して、シフトダウンせずにノッキングをさせながら山道を登ると、水温はたちまち上がる。
●オーバーヒートを起こす要因
オーバーヒートを引き起こすには、幾つかの要因が関連した。
昔の車は、「気化器仕様」であったり、また古くは「加圧式ラジエター」で無かったりと、技術的に未成熟であった。
フルトランジスター点火装置になるまでは、ポイント式の点火方式で、燃料のオクタン価に応じて点火時期を進めたり遅らせたりの微調整をする、ディストリビュータに設けたオクテンセレクタ(octane selector)とかで、高負荷の条件下に微妙に対応する事が難しかった。
オーバーヒートで路肩に停車する車を最近見かけなくなったのは、燃料噴射方式が殆どになり、電子制御の点火方式になった事が大きく関係している。
●ラジエター関係の工夫
過剰加熱対策だから、容量の大きなラジエターを装備して、夏場の高負荷の条件に適応しようとするのは間違っていない。
しかし、逆に「オーバークール」にも対応しておかなければ、年間を通じて稼働する車には不都合が起こる。
本田宗一郎氏が、長年にわたって「空冷」に拘ったのも、「水冷(液冷)」のラジエターや冷却液に関するシステム構築の課題に対して、技術者としての確たる姿勢があったからだろう。
●ラジエターカバー
スバル360と共に、一世を風靡したマツダキャロル(1962年~1970年)は、スバル360が空冷、2サイクル、2気筒で2ドアだったのに対して、水冷、4サイクル、4気筒で2ドアと4ドアをラインアップしていた。
両車ともリヤエンジンで、フロントエンジン車に比べると、エンジン冷却面ではダイレクトに走行風を取り込み難いので、オーバーヒート対策に神経を使っていた。
キャロルは、夏場のオーバーヒート対策に、余裕を持たせた大きなラジエターを装備していたので、逆に冬場のオーバークール対策で、巻き上げ式サンシェードの様な装置を設けて、冬場にはラジエターを部分的に覆って、オーバークール対策していた。(写真1)
●デュアルラジエター
スバル1000(1966年~1969年)のエンジンには、国産車では初めての、独特なデュアルラジエター方式の冷却装置が採用されている。
デュアルラジエターは、一般に採用されている冷却方式とは異なり、メインラジエターに冷却ファンがなく、その機構は、メインラジエター、サブラジエタータ、リザーバータンク、サブラジエター用の小型電動ファンからなっている。
エンジン始動すると、最初はサブラジエターが働き、中高速ではサブ+メインの両ラジエターが働き、高負荷時にはファンが働くというシステムで、冷却能力を確保していた。
●ラジエターは加圧式に
水(純水)は、地上付近の1気圧(1013.25hPa)では、100度で沸騰する。
海抜1500mでは95度、 富士山頂では87度くらいに沸点が下がる。
高い山に登ると、沸点が下がって飯盒で上手く飯が炊けないのはこの為だ。逆に、加圧されると、沸点は上昇する。
加えて、エンジンの冷却水に使用されているのは、LLC(ロングライフクーラント・long life coolant)と水の溶液でその主成分は、エチレングリコール(ethylene glycol)という2価アルコールの一種で、沸点は197度と高い。
LLCの濃度は新車の段階で30%程度であり、加圧されると、沸点は上昇するので、開放式ラジエターよりも加圧式だと、より高温までラジエター内の冷却液は沸騰しない。
結果、ラジエターキャップの加圧性能や濃度にもよるが、沸点は120~130度程度となった。
●車の計器類
スポーツカーであれば速度計(スピードメーター)、回転計(タコメーター)の他に燃料計(フユーエルメーター)、水温計(ウオーターテンプメーター)、油温計(オイルテンプメーター)、油圧計(オイルプレッシャーメーター)、電流計(アンメーター)、電圧計(ボルトメーター)、ターボ加圧計(ターボブーストメーター)等の、多種メーター装備も珍しく無い。
しかし、一般的な車の運転席に設置されている「必須メーター」は、速度計、燃料計、水温計だ。
これに少しスポーティーなモデルだと、エンジン回転計が加わる。例えば、油圧計は、警告灯で十分なのだ。
「速度」と「燃料残量」と「水温」にさえ気を付ければOKだという事だが、逆にやはり水温には気を付けなければならないので、「オーバーヒート」は死語になる直前で生き残っているのだろう。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る)