EUが年末の土壇場で英国や中国と合意(1)【中国問題グローバル研究所】

2021年1月20日 11:43


*11:43JST EUが年末の土壇場で英国や中国と合意(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察を2回に渡ってお届けする。

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◆1週間に2つの合意
昨年末、英国や欧州の首都は例年と違ってとても静かなクリスマスを迎え、公式イベントや花火、祝賀行事はなかった。だからといって、権力の中枢で動きが一切止まっていたわけではない。 欧州連合(EU)は2020年最後の週に、英国および中国と通商や投資の協定に合意した。わずか数週間前にはどちらも合意は難しそうに思われたものだ。とにかく2020年は驚きが多い年だった。

英国では4年前、国民投票で予想外にもEU離脱が決まった。この投票で、英国の4つの地域に明確な隔たりがあることが浮き彫りになった。今後の連合王国のまとまりに長期的な影響を与えるだろう。この4年間、英国ではEU離脱(ブレグジット)問題が政治の中心を占め、中でも最大の問題は二つの異なるパワーである英国とEUが貿易関係を管理する協定に合意できるかどうかだった。この数年間の苦難の歩みは、いずれ歴史家が詳しく記録に残し評価するだろうが、最終的に合意は成立した。貿易や人の移動の混乱という最悪の結果を回避したという意味では十分良い結果であり、外国為替市場でポンド相場に1ポンド約1.35ドルと、年初来の高値に上昇して年を終えた。4年前の国民投票前に1ポンド約1.5ドルで取引されていたポンド相場は、英国の最初のロックダウンの最中に1.15ドルの安値を付けていた。

しかし、協定合意はブレグジットそのものの序章が終わったにすぎない。英国は1年前にEUの政治制度から正式に離脱したが、貿易の条件は2020年末まで影響を受けなかった。そして今、英国は離脱支持者が望んでいた通り自力で歩むことが現実となったが、その経済の行方はかなり不透明である。

同じ週に実現した2つ目の合意も予想外だった。EUと中国の包括的投資協定(CAI)は合意までに6年を要した。市場開放や国有産業への支援、労働者の権利に関して、中国側が意味のある修正をすることが要件となっていたため、合意の可能性は低いとみられていた。しかし、ドイツのメルケル首相は、合意締結のため自らに課した期限として2020年末を設定。ドイツの産業界がこの協定合意を後押ししたとみられ、オンラインで公表されたEUの公式文書には以下の文章が含まれていた。

参加者はとりわけ、EU・中国関係を特に重視し、EUと中国との交渉を全面的に支持してきたEU理事会議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相の積極的な役割を歓迎した。

もちろん事実としてはその通りであり、おそらく単に首相の支持と尽力への謝意を示すものにすぎないが、同時に、後日関係が悪化したとしても、合意を主導したのは彼女だと明確に示したという解釈も可能だ。中国との貿易関係の強化は今後の中国との付き合いの一部ではあるが、ポスト・トランプの国際関係の新時代が始まる中で、このような重要な協定に今合意することで、EUは中国に対する大きな影響力を手放したことになる。

「EUが年末の土壇場で英国や中国と合意(2)【中国問題グローバル研究所】」へ続く。

(写真:新華社/アフロ)

※1:https://grici.or.jp/《RS》

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