後を絶たない高齢ドライバーの逆走事故 物理的・視覚的対策だけで大丈夫か

2021年1月8日 08:19

 1月6日未明、奈良県大和郡山市の西名阪自動車道で男性(70代)が運転する乗用車が逆走し、軽乗用車と正面衝突、軽乗用車のドライバー(30代)が死亡した。国土交通省の2019年にデータによれば、死亡事故に至らぬまでも高速道路での逆走は2日に1回以上の割合で発生しているという。

【こちらも】自動運転は安全なのか? AIではないコンピュータ制御とメカニカル装置との整合性

 国土交通省が逆走のデータを取り始めたのは2011年からで、そのデータを見る限り、2015年をピークに減少傾向にある。減少した理由としては、ICやSAといった逆走しやすい場所に物理的なポールなどの設置や、民間企業などからの技術対策を2018年から現地展開しているからだ。

 だが実際には、高速道路の逆走が2日に1回以上確認され、しかも死亡事故につながる割合が、事故全体に比べ40倍ということが2019年の国土交通省の調査で分かっている。

 これまで、行政や民間が協力して逆走阻止のための物理的な対策を講じてきてはいるが、必ずしも成功しているとは言えないだろう。これはもはや物理的な対策だけでは逆走事故を防ぐことができない次元まで来ているのではないだろうか。

 逆走をする人は幅広い年代で確認されているが、2018年のデータでは75歳以上の高齢者が45%を占めている。また、年齢別で見れば75歳から79歳までが39.8%を占め、最も多い年代となっている。

 このように、データを見ても明らかに高齢者の逆走事故が多いわけだが、高齢者が物理的な逆走対策を無視して逆走する理由には、高齢者ならではの特徴があると考えられる。それは、周りが見えていないということと、思い込みが強すぎることである。また、認知症を患っていることも考えられるだろう。

 免許更新時に、高齢者講習や認知機能検査等が行われるが、実際歩くこともままならない高齢者が、運転シミュレーターに座ると何事もなかったように運転をこなす姿を見たことがある人もいるだろう。これでは現状の免許制度ではかなり難しいと言える。

 ならば運転免許取得年齢を定めるのと同じように、返納年齢を定めたほうが良いという意見も聞かれるが、実際に高齢者が運転する理由はクルマがなければ生活が成り立たない地域に住んでいることが多い。そのため、高齢者から運転免許を取り上げることは生活を奪うことにもなりかねない。

 この問題は非常に難しい問題ではあるが、逆走は交通違反であることと、逆走事故は他人の家族を不幸のどん底に陥れてしまう。だからといって法改正で免許制度を厳しくするのもまだ早いと言える。まずは高齢者が安心して移動できる体制を国として整備することが不可欠だ。(記事:小泉嘉史・記事一覧を見る

関連記事

最新記事