理研ら、耐性菌対策の微生物実験を実施 ロボットで大規模実験が可能に
2020年11月27日 18:36
感染症の治療に用いられる抗生物質への耐性をもつ病原菌の存在が、問題視されている。理化学研究所(理研)は24日、開発した実験ロボットによって、耐性菌の進化を支配する条件を明らかにしたと発表した。
【こちらも】名古屋大学、薬を無効化する耐性菌対策となる化学物質を発見
■耐性菌が生まれるメカニズム
生物は自らの細胞内に、「ゲノム」と呼ばれる遺伝情報を含む。ゲノムは塩基の配列から構成されるが、こうした配列の違いが生物の違いの源となっている。ダーウィンを祖とする進化の考え方によれば、こうしたゲノムのもつ塩基配列が環境条件に応じて選択が働く。これにより、生物のもつ性質が変容していく。
耐性菌もまた環境条件に応じて自らの性質を変える。病原菌を「退治」するための抗生物質が開発されたとしても、耐性をもつ病原菌が新たに誕生する。こうした耐性菌の対策のひとつとして、病原菌が進化する仕組みを理解することが考えられる。だがゲノム配列が変化するだけでなく細胞の状態が変化するなど、複数の要因が絡み合っているため、病原菌の進化は十分には理解されていないという。
■機械学習で大腸菌の耐性獲得戦略が明らかに
理研、東京大学、科学技術振興機構の研究者らから構成されるグループが着目したのは、「進化実験」だ。薬剤を添加した環境で微生物を培養することで、進化過程が再現されるという。こうした進化実験は微生物のゲノム配列や遺伝子の発現量を詳細に調べられるものの、実験で使用される薬剤の数は高々十数種類だったという。
研究グループは、「ラボオートメーション」と呼ばれる自動で培養できる進化実験ロボットを開発した。これにより、95種類の薬剤を添加した環境下で微生物の培養が可能になったという。研究グループは大腸菌で耐性をもつメカニズムを調べることで、耐性菌の出現を抑制する薬剤の組み合わせを発見した。
また、実験で取得したゲノム情報や遺伝子発現量と薬剤に対する耐性との関係を機械学習によって求めた。その結果、薬剤による耐性変化に関連する遺伝子の特定に成功。研究グループによると、大腸菌はさまざまな薬剤に対し耐性を獲得するのではなく、耐性を獲得するための戦略は少数であることを今回の成果は意味するとしている。
研究の詳細は、Nature Communicationsに24日付でオンライン掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)