ミトコンドリアのゲノム解析で在来ヤマメの危機的状況を解明 九大
2020年11月9日 08:17
代表的な渓流魚のひとつである「ヤマメ」。九州大学は6日、佐賀県嘉瀬川水系内に生息するヤマメのミトコンドリアゲノム(以下、ミトゲノム)から、非在来種の放流の実態と在来種が置かれた危機的状況を明らかにしたと発表した。
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渓流の狭い領域にのみ生息する在来種は、数は少ないものの、環境に適応するため生命力が強い。そのため、持続的な資源として利用可能な存在だ。一方で養殖魚との交雑による遺伝的多様性が天然魚へのなんらかのリスクをもたらす可能性があることが、水産庁によって指摘されている。
■非在来種との交雑によるリスク
ヤマメは河川ごとに分化し、形態や性質、遺伝型など固有の特徴をもつ。こうした在来種の数は少ないため、養殖魚の放流が行われている。だが、放流されるヤマメは別の河川に由来するものが多いため、交雑により在来ヤマメがもつ固有の特徴を失うリスクがあるという。
在来ヤマメを守るための対策として、禁漁による在来種を増やすことが挙げられる。また在来種の生息する河川を調査するために、聞き取り調査や遺伝子の分析が実施されているという。だが九州では、ヤマメの遺伝情報の研究がほとんど実施されておらず、情報が不足しているという問題があった。
■変異の多いミトコンドリアDNA
九州大学の研究グループは、嘉瀬川水系に生息する在来ヤマメと放流される養殖ヤマメのミトゲノム解析を実施した。細胞核に存在するDNA(核DNA)のほかにも、細胞質内のミトコンドリアにもDNAが存在する。こうしたミトコンドリアのDNAは核DNAよりも塩基置換が5~10倍速い。そのため進化研究の有力な情報を提供するという。
解析の結果、養殖魚に由来する遺伝子は調査した水系内の17カ所のうち、13カ所で検出されたことが判明した。これは事前調査で判明した5カ所よりも多く、広範囲で非公式な放流が行われていることを示唆するという。
研究グループによると、本研究で明らかになった遺伝情報は、ほかの河川にも適用可能だという。ヤマメの密放流の監視だけでなく、在来種の遺伝子をモニタリングすることにも活用が期待されるとしている。
研究の詳細は、米科学誌PLOS ONEに4日付で掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)