携帯料金の値下げ問題が迷走を始めた 20ギガバイト新設が”値下げ”と言えるのか? (上)

2020年10月31日 13:36

 携帯電話料金の値下げ問題は、菅首相が官房長官時代に言及してスタートしたが、3大キャリアと言われるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは手強い相手だ。表立って「できない」とは言わないが、自ら進んで実質的な値下げにつながる動きをすることはない。現時点での判断がその後の収支を左右するとなれば、目先の受け狙いで安易な値下げに走ることを戒めるのは当然のことでもある。

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 自由主義経済の只中にある歴とした私企業だから、監督官庁も政府も料金の値下げを強要していると見られたくないし、言質も与えたくない。

 だから手間暇はかかるがセオリー通りに、大義名分の箔を付けて取引慣行を見直すという王道を執った。

 18年11月、政府の規制改革推進会議が携帯電話料金の引き下げで、通信料と端末価格の完全分離が妥当であることを答申。その数日後には、総務省の有識者会議も端末と通信の「完全分離」を緊急提言している。

 1年後の19年10月1日、やっと通信料金と端末代金の完全分離を義務付けた改正電気通信事業法が施行された。同時に、楽天の携帯電話事業への参入が競争原理を引き出す大きな目玉だった。しかし、基地局の設置を甘く見て準備が整わなかった楽天が、時期を明示しないで事業参入を繰り延べたことが、大きな誤算となった。

 3大キャリアは、新規参入者である楽天が基地局設置に手間取り、万全の形で参入できないことを見抜いていたから、本気の値下げプランを封印。その料金プランを一瞥した当時の菅官房長官は「総務省はなめられている」と漏らしたと伝えられている。3大キャリアはそれだけしたたかだということだ。

 菅氏が首相に就任して、重点施策の1つとして「携帯電話料金の引き下げ」を打ち出してからも、3大キャリアの動きは鈍い。

 10月28日、ソフトバンクとKDDIは、20ギガバイトのデータ容量の料金プランを両社の格安ブランドに新設し、価格を公表した。両社の容量基準や価格の設定がバラバラであるため一律の比較はできないが、要約すると従来50ギガバイトか無制限だった大容量プランに設定されていた7500円前後の料金プランと、従来10ギガバイトで2980円~3680円に設定されていた小容量プランの間に、20ギガバイトの新プランを設定し3980円~4480円で提供するという。

 従来の大容量プランも小容量プランも料金は据え置き、その間に新しいプランを設定することは、品揃えを拡大しただけで「値下げ」とは受け止め難い。

 NTTがNTTドコモを完全子会社にするための手続き期間中であるため、ドコモが新料金を発表できないことを割り引いても、胸を張って「値下げです」とは言いにくかっただろう。もっとも、総務省が求めていた値下げ水準が「20ギガバイトで税込み5000円弱」だったという説もあるから、第1段階として最低限の条件はクリアしたとする見方も成り立つ。その場合は功を焦って、「20ギガバイトで税込み5000円弱」を求めた総務省の姿勢が問われなければならない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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