全固体電池の実現に「分子結晶電解質」が新たな方向性示す 静岡大らの研究

2020年10月31日 15:08

 現在リチウムイオン電池は電気自動車などの用途で広く使用されているが、発火や漏液による危険性が重要な課題とされている。そこで注目されているのが、電解質を固体にして安全性を向上させた「全固体電池」であるが、実用化には低温下での動作や作製時の成型処理など多くの課題がある。

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 静岡大学と東京工業大学の共同研究グループは、これまでの固体電解質とは全く異なる材料系にて新たな方向性を示した。29日の発表では、「分子結晶電解質」が高い充放電効率で動作すると確認されたことなどが明らかになった。

 これまでの全固体電池の電解質としては、セラミックスやガラス、ポリマーなどが広く研究されてきた。しかし実際に電解質として使用するには、イオン伝導性だけでなく成型性や温度特性、熱化学的な安定性など多くの条件を満たす必要がある。そのため、従来の研究で報告されてきた材料以外の新たな固体電解質の開発は、重要な課題とされてきた。

 そこで共同研究グループが着目したのが、「分子結晶電解質」である。分子結晶電解質は有機物であるため、適度な柔軟性を有し、かつ結晶ならではの高いイオン伝導性を有することが特徴だ。

 今回の研究では、使用する分子材料の組み合わせと配合比を工夫することにより、室温およびマイナス20度の両方で最高水準のイオン伝導性を実現した。また、今回の分子結晶電解質によるイオン伝導性の指標である輸率は、現在大きく注目されている硫黄系セラミックス材料に匹敵する値である。

 さらにセラミック系固体電解質との大きな差となるのが、成形性や柔軟性である。セラミック電解質の場合はプレス工程が必要であるが、今回の分子結晶電解質は熱融解させた電解質を滴下するだけと、非常に簡便な方法で作製可能である。実際に分子結晶電解質を用いて作製した全固体電池も高い充放電効率を示すことが確認された。

 また、セラミック系の全固体電池に見られる、充放電時の膨張収縮によるクラックの発生なども抑制できる可能性が示された。

 本研究の成果は28日付の「Nano Letter」誌オンライン版にて掲載されている。

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