JR東が終電時刻を繰り上げ、コロナ対策と業務の見直しをダブルで実現か?

2020年10月25日 18:59

 21日、JR東日本は21年春のダイヤ改正について、概要を発表した。最大の注目点は、首都圏在来線で実施される終電時刻の繰り上げだ。

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 新型コロナウイルスの感染拡大に対する社会的な不安感の高まりにより、公共交通機関の利用者が減少している。新型コロナの感染拡大を防止するため、飲食店で退勤後の憂さ晴らしをする人々が激減し、飲食業界は崖っぷちの経営を強いられている。リモート宴会の効用を評価する声が高まることなど、飲食店経営者にとっては悪夢のようなものだが、公共交通機関も飲食を終えてさみだれ式に帰宅していた利用者の減少により、収支の基盤が揺らいでいる。

 以前から観念的に語られていた「在宅勤務」が、俄かに脚光を浴び、インターネット環境が普及していたことと相まって、職種によっては一気に拡大した。在宅勤務は単に感染拡大を防止する観点から評価すると正解だったようだが、あおりを受けたのは公共交通機関だ。リモートワークで利用客の絶対数が減少し、飲まずに定時に帰宅する利用者が落ち着いた後には、閑散とした車内空間が広がっている。

 社会に無くてはならないインフラだった筈が、今では「従来の様な需要を期待することはできない」という段階に至った。「空気を運んでいても商売にならない」から、運行本数の削減を検討する必要に迫られた。

 JR東日本では、収支改善のために運行の見直しに迫られていた営業部門と、日々の保守点検を行うメンテナンス部門の思惑が一致したようだ。間引き運転をする場合に得られる効果が経費削減だとすれば、終電時間の繰り上げによって得られるのは経費削減と、終電後の保守管理業務に充当する時間の拡大だ。営業と管理の利害が、珍しく一致したのかも知れない。

 安全運行が大前提の鉄道事業にとって、車体の整備はもちろん軌道となっているレールや電力を供給する架線の、日常的な点検や保守作業は欠かせない。

 レールや架線などの点検・保守作業は終電後に開始され、始発前には終了しなければならない。今までは、午前1時30分頃から200分~240分程の余裕しかなかった。鉄道事業は利用客がいない時間帯には職員が保守・点検業務を担い、1日中フルに稼働を続ける宿命を持っている。

 JR東日本では、将来的な人員不足も念頭に置いて効率的なメンテナンス作業を行うため、移動作業車と材料運搬車の2両で構成される新型保守用車(MMU)の試験導入を、6月19日に公表していた。

 床面のない移動作業車は天候に左右されず効率的な保守作業に当たることが出来る。連結された材料運搬車には、パワーリフターやホイストクレーンが装備され、重量物の取扱いが可能でレール等の資材運搬も行う。屋根に設置された点検台では、架線設備の点検作業に当たることが出来る。

 この保守車両を導入すると作業員の実労働時間を40分削減できるが、設置と撤去に要する時間が60分必要になるため、差引20分程度の時間を捻出する必要に迫られていた筈だ。

 今回終電時刻が繰り上げられる対象は17路線で、繰り上げ幅は短い区間で16分、長い区間で37分程度になるようだから、社会のインフラとしての機能低下を極力抑制しながら、運行経費の削減とMMUの活動を可能とするという、複雑な方程式を解き明かした末の結論が今回の発表なのだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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