三菱重工が「スペースジェット」の事業化を凍結 国産ジェット旅客機はどうなる?

2020年10月23日 18:24

 三菱重工業が「スペースジェット」の事業化を凍結する段取りを進めているようだ。08年に「MRJ」として華々しく開発ののろしを上げた国産初のジェット旅客機の夢は、遥か彼方に飛び去ろうとしている。

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 もちろん、開発過程における数々の不手際で、今まで6度に及ぶ納入延期を繰り返して来た歴史は、避けて通れない。しかも20年2月に公表された6度目の納入延期の際には、繰り延べされた初号機納入時期は「21年度以降」と、時期を特定しない曖昧なものだった。

 その後新型コロナウイルスの感染が拡大して世界的に深刻な状況を見せていた6月には、開発体制を大幅に縮小することが伝えられ、前途の困難さを強く印象付けていた。

 スペースジェットの度重なる納入延期に、新型コロナウイルスが止めを刺した印象は否めない。国際的な感染拡大による影響で、他国への航空需要が世界中で蒸発してしまった。現在航空業界の話題は、どこの航空会社が如何に大きな赤字を出しているのかということだ。各社とも必死に耐えているが、今後の状況次第では息切れする会社が出てきても不思議ではない。

 スペースジェット初号機の納入を受けるローンチカスタマーの栄誉を担っていた全日空も、例外ではない。むしろ、コロナ過が始まる前まで積極的な機体購入という高額な投資を続けていたことが、運賃収入が途絶えた全日空の資金繰り悪化に拍車をかける恐れがある。

 航空機は高額な商品なので契約解除をする場合には、莫大な違約金を覚悟する必要がある。全日空がかねてエアバス社に発注していた、座席数520席で総2階建ての超大型機エアバスA380型機は、予定通り就航する見込みが立たないため4月に受領する予定を繰り延べていた。納入を待つエアバス社には駐機させているだけで多額の経費負担が発生するから、全日空に対して強硬に受領を求めただろう。全日空も損得を弾いて受領した方がまだマシと判断したのだろうが、就航予定がある訳ではない。

 スペースジェットと全日空の関係は、エアバスA380と逆になる。納入契約を履行できない三菱航空機が全日空に違約金を支払う立場だから、全日空にとってはスペースジェットの事業化凍結は誤解を恐れずに表現すると「有り難い話」だ。

 スペースジェットは事業化が凍結されても型式証明の取得は目指すようだ。開発決定から既に10年以上の歳月を経て、機内意匠の陳腐化は相当進行している。飛行するのに問題はなくとも「ちよっと、古臭い」と感じさせる年月は充分経過した。今後事業化の凍結を解除する時期が来るのか、別な道を選択しなければならないのか、最終的な結論が下される前には様々な思惑が交錯することになるのだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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