新型コロナの重症患者から「免疫のブレーキ」の異常を発見 熊本大ら
2020年10月13日 17:18
新型コロナウイルス感染症の重症化に免疫が関与していることが分かってきているが、まだそのメカニズムは明らかになっていない。熊本大学らは、コロナウイルス感染症の重症患者において、免疫細胞の1つであるT細胞のブレーキ機能が低下していることを、生命情報工学的な解析技術を用いて明らかにした。このように重症化メカニズムを1つずつ紐解いていくことが、今後の治療薬開発や診断方法開発に貢献していくだろう。
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今回の研究は、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授および、熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター佐藤賢文教授の共同研究グループにより行われ、8日に科学雑誌「Frontiers in Immunology」に掲載された。
新型コロナウイルスに感染したときに、軽症で経過する場合もあれば、重症化してしまうこともある。重症化患者の血液中では、過剰な炎症性物質がみられるサイトカインストームという状態になっていることが分かってきている。サイトカインストームとは、通常ウイルスや異物を撃退するために作り出されるはずの免疫機能が暴走してしまい、過剰な反応のために危険な状態になってしまうことだ。
研究グループは、免疫細胞のうちT細胞に注目した。T細胞は脊椎で作られ、胸腺で成熟する免疫細胞の一種である。若いT細胞は細胞の表面にCD4という分子とCD8という分子を持っており、成熟と共に片方だけを持つようになる。
CD8だけを持つものは キラーT細胞というウイルスなどを直接攻撃する細胞になる。またCD 4だけを持つものはヘルパーT細胞という免疫系の司令塔の役割を持つ細胞になる。
ヘルパーT細胞は、インターフェロンやインターロイキンなどのサイトカインを分泌し、他の細胞を活性化したり働きを助けたりする。そして免疫反応が進むと、このヘルパーT細胞の一部は、FoxP3という分子を発現するようになると同時に、ブレーキの働きをする制御性T細胞へと分化する。
今回の研究では、中国武漢の新型コロナウイルス感染症患者の肺組織における遺伝子データを使用した。すると重症患者において、T細胞が強く活性化している一方で、FoxP3の発現が誘導されていないことが分かった。つまり通常免疫反応が進むと現れてくるはずの制御性T細胞が働かず、免疫系にブレーキが効かない状態になっているということだ。そのため過剰なT細胞の反応が起こり続けてしまうということが分かった。
今回の研究により、重症化患者とそうでないものでFoxP3分子の発現が異なることが明らかになったが、その原因はまだ明らかではない。今後その原因を明らかにしていくことで、治療法の開発や重症化の診断に貢献していくことが期待できるだろう。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)