哺乳類の性決定遺伝子を発見 従来説を覆す 阪大ら
2020年10月8日 09:05
大阪大学は2日、マウスの性を決定する因子を発見したと発表した。
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■長年信じられた性決定因子
哺乳類にはオスやメスといった性が存在する。こうした性の決定もまた遺伝子情報をもとに行われる。DNAは転写されるとRNAを合成し、この転写産物をもとにタンパク質が合成される。性を決定する遺伝子はY染色体に含まれ、この遺伝子情報をもとに転写産物(RNA)が合成される。この転写産物をもとに、最終的にタンパク質が合成される。
哺乳類の場合、この因子が胎仔(たいじ)期の生殖腺を発現することでオスが誕生する。こうした転写因子の合成をコードする塩基配列(DNA)がY染色体から1990年代初頭に発見されている。「Sry」と命名された遺伝子から唯一の転写産物である「Sry-S」が合成され、性を決定する因子「SRY-S」が合成されるという。こうした性を決定する因子はSRY-Sただ1つだけだと約30年間考えられてきた。
大阪大学と豪州・クイーンズランド大学の研究グループは、「トランスクリプトーム解析」と呼ばれるDNAから転写されたRNAを解析する方法で、性が決まる時期のマウスを調べた。解析の結果、これまで唯一だと考えられてきたSRY-S以外に、「SRY-T」と呼ばれる新たな性決定因子が存在することが判明。
研究グループは、性決定因子SRY-Tを合成させる転写産物Sry-Tの役割を調べるために、Sry-Tが欠損したマウスを作製した。その結果、従来性決定因子と考えられてきた「SRY-S」が発現したまま欠損マウスがメスへと性が変わった。これは、SRY-Tが性を決定する真の因子であることを示している。
■ウイルスが性決定メカニズムを維持させた
研究グループはまた、性を決定する因子SRY-Tが種の存続の危機を救った可能性があることも示した。Y染色体は1本しかないため遺伝子が修復されず、Y染色体は進化の過程で遺伝子を失い続けている。これまで性決定因子と考えられてきたSRY-Sは「デグロン」と呼ばれるタンパク質を分解する配列を含み、デグロンを合成するために必要な塩基配列が失われつつある遺伝子に含まれるのだという。
今回、SRY-Tが性を決定する真の因子だと判明した。研究グループは、ウイルスに由来する配列が宿主の遺伝子を進化させることで、種の存続の危機から救った可能性があるとみている。
研究の詳細は、米科学誌Scienceにて2日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)