DNA修復する光回復酵素の能力を向上 光合成のメカニズム用いて 阪大ら
2020年9月22日 13:42
大阪大学基礎工学研究科らのグループは、DNA上の傷(損傷DNA)が紫外線など太陽光に含まれる青色光により修復する光回復酵素の能力を、光合成の過程で発生する光捕集の現象を用いて向上させることに成功したと発表した。現段階では、光回復酵素の技術をヒトのDNA修復治療に応用することは難しいが、今回の研究は光遺伝子治療の発展につながる可能性がある。
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光回復酵素は、バクテリアから哺乳類まで全ての動物に備わっており、紫外線や化学物質などで損傷を受けたDNAの傷を修復する機能を持つ。DNA損傷を減少させるほか、細胞の致死効果を削減する効果もある。実際にワイオミング大学が行った研究では、光回復酵素には、細胞のDNA修復を助けるだけでなく、DNAの寿命を延ばす機能が認められている。
一方、ヒトは光回復酵素を持っておらず、化学の力で新たに作成する試みが何度も実施されてきた。阪大の基礎工学研究科は、過去に同酵素と同じ機能を持つ低分子化合物の開発に挑んだほか、名古屋工業大生命・応用化学専攻のグループらは、同酵素にアミノ酸変異を施すことで、DNAを治癒できる損傷DNAの種類をコントロールすることに成功している。
昨今では研究が進み、人体に光回復酵素をコードする遺伝子を導入することで、ヒトでも光回復の現象を再現できると目されている。しかし、再現時には生体を通す割合が低い青色光を使うため、生体への効果が低く、医療応用するにはほど遠い状況にある。
そんな中、今回の研究グループは、太陽光を集光して光合成に活用する植物の光捕集の現象により、光回復酵素の能力を高められないか考えた。この仮説の元、光回復酵素に可視光の吸収、放出により物体に色を与える人工の色素を加え、光回復能力の遷移を検討した。
すると、人工色素分子を導入した実験群は、光合成と同等レベルで青色光を集め、DNA修復能が向上した。DNAを足場として色素導入する方法を開発し、DNA修復能が最も改善される色素分子の導入位置も特定した。
これらの研究成果を踏まえ、研究グループは、「人工光捕集による光受容能とDNA修復能の向上が達成できれば、ヒトへの適用が可能になる」と強調。人工色素の導入で集光能力が高いDNA修復酵素を得られたことから、「より高効率にDNAを修復できる人工酵素を開発できる。同様の手法で蛍光タンパク質の導入に成功すれば、欠失遺伝子を持つ指定難病を持つ光遺伝子治療法への応用が進む」とした。(記事:小村海・記事一覧を見る)