東大ら、銀河中心から放出される過剰なガンマ線の機構解明 暗黒物質の正体に制約
2020年9月17日 07:14
東京大学は14日、10年以上前に天の川銀河の中心から放たれた過剰なガンマ線放出が、暗黒物質によるものだとする従来の説を提案モデルによって覆したと発表した。暗黒物質の正体解明を加速させる発見だという。
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■宇宙の運動を説明するために必要だった仮の物質
暗黒物質(ダークマター)は、目に見えない仮想上の物質だ。「バリオン」と呼ばれる通常の物質は宇宙に存在する物質の4%に過ぎず、約5倍の22%が暗黒物質であるといわれている。かみのけ座銀河団の銀河の運動から、暗黒物質の存在を仮定したことが始まりだ。
暗黒物質の正体として、原始ブラックホールや銀河ハローに存在するMACHO、弱い相互作用しか起こさない重い素粒子WIMPなどが候補として挙げられる。
米航空宇宙局(NASA)が2008年に打ち上げたフェルミガンマ線宇宙望遠鏡は、天の川銀河の中心部から高エネルギーのガンマ線が大量放出されていることを確認した。銀河の中心には暗黒物質が高密度で存在すると考えられているため、暗黒物質を構成する粒子が反粒子と対消滅することで引き起こされると信じられてきた。
■暗黒物質の正体は最有力であるWIMP以外の可能性も
今回の研究は、東京大学、米国・カリフォルニア大学アーバイン校、オランダ・アムステルダム大学などから構成される国際共同グループにより行われた。研究グループは、銀河の中心にある分子ガスや、「質量放出」と呼ばれる星が形成される際に表面から物質が放出される現象など、銀河中心で起きる現象に関するモデルを洗い出し、ガンマ線放出を推定するモデルに組み込んだ。
その結果、暗黒物質を想定しなくても天体物理学的に過剰なガンマ線放出が説明できることを示した。研究グループによると、本研究成果が暗黒物質のモデルに制約を与えるものだという。
だが、本研究成果は暗黒物質の存在までは否定しない。あくまで暗黒物質の粒子の種類を制限するだけだという。今後は、現在主流のWIMP以外の可能性についてなど、暗黒物質の解明につながることが期待されるとしている。
研究の詳細は、米物理学誌Physical Review Dに20日付でオンライン掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)