【先生方の座談会】取り組みを振り返って見えてきた、オンライン教育の課題と未来。学校、家庭はどうSHIFTしていくのか?(最終回)
2020年8月3日 21:14
2020年3月、突然の休校により一変した教育現場。子ども達が奪われた「学びの場」を取り戻すため「オンライン学校」という新しい教育プロジェクトが立ち上がりました。既存のe-learnigとは異なり、リアルタイム配信、学びの本質の追求、双方向のコミュニケーションにこだわった画期的な取り組み。Withコロナの時代、これまでの学校と家庭の役割を見つめ直し、新しい教育の在り方を考えるきっかけとして、この記事を広く活用していただけることを願っています。
本記事の原稿は、コロナで学校の休校が始まった2020年4月に開校した、オンライン上(Facebook)で学校を提供するプロジェクト「緊急開校 オンライン学校」の立ち上げメンバーの方々に寄稿していただきました。
休校によって子どもたちが自宅に閉じ込められ、生活リズムと学びの習慣が失われていることに危機感を持って集まった有志によるこのプロジェクトは、最終的には延べ1000名を超える参加者を含む、大きな活動の輪となりました。
本記事を掲載する現在、多くの学校は再開していますが、このプロジェクトで実施された様々な学びの企画・実験は、今後の子どもたちの学びや教育を考えるうえで重要なヒントを多く含んだものになっていると考えております。
連載最終回の今回は、オンライン学校を終えた振り返りをしていただきました。
「緊急開校 オンライン学校」Webサイト
https://peraichi.com/landing_pages/view/online-school
(グーテンブック編集部)
プロジェクトWebサイト「緊急開校 オンライン学校」
本記事でご紹介していただいたプロジェクト「緊急開校 オンライン学校」のWebサイトです。
「【アフターコロナへ】緊急開校!オンライン学校の取り組み」の記事一覧
本連載1~4回目はこちらからお読みいただけます。
オンライン学校を終えての座談会
「オンライン学校」は、5月末で一旦その活動を終えましたが、取り組みを通して「学びの場」を得たのは子ども達だけではありませんでした。登壇された先生方、親御さん、そして社会に関わるすべての方々にとっても、これまでの教育を捉え直すきっかけとなる取り組みだったのではないでしょうか。
この記事では、活動を終えた先生方に座談会として集まっていただき、その活動の振り返りや反省点、これからの教育への思いなどが語られた内容をまとめています。活動を通して見えてきた、学校教育と家庭教育の未来。新しい教育へSHIFTする第一歩として、多くの方に一緒に考えていただくきっかけとなることを願っています。
*座談会参加者(五十音順)
石島 涼麻(算数・数学担当)
及川 政孝(オンライン学校 主宰)
岡田 春佳(国語担当)
香坂 公嗣(オンライン学校 主宰)
斉藤 陸(社会科担当)
杉山 かおる(理科担当)
西田 大樹(理科担当)
宮園 順光(英語担当)
「教える内容」の振り返り
ー授業で教える内容を考えるにあたたって、いろいろと悩まれたと伺っています。具体的にはどのように考えられていったのかを教えてください。ー
石島:私は算数と数学を担当しました。授業をやってみて、学校で学習する内容と、僕達が伝えたいメッセージの部分(学びの本質)を組み合わせて伝えるのはすごく難しかったですね。いちばん最初は算数の授業だったのですが、算数の内容についていろいろと調べて、子ども達がつまずきやすいポイントを分析しました。それを片っ端から指導していった感じです。
岡田:私は国語を担当しました。もともと国語が嫌いだったので、最初に思ったのは、今まで自分が習ってきたような国語を伝えるのは嫌だなということです。文章や国語を本当の意味で理解しないとつまらないし、国語はいろいろな勉強の基礎になる要素がすごくあるということに、大人になってから気付いて。だから、それを子どものうちから少しでも親しめるように、という思いのもと授業の内容を考えていきました。勉強っぽくない勉強の仕方で国語はやりたいかな、という感じですね。
「教える方法」の振り返り
ーオンライン配信ならではの「教え方・伝え方」を数多く取り入れられていたかと思います。どのような思いのもとに考えられていったのかを教えてください。ー
西田:理科の内容に関しては、実際にやって見せる実験を取り入れました。1回目の授業では、野菜が浮くか浮かないかという実験で、水槽があったほうがやりやすいのですが、家でやるには大がかりなものになってしまいます。そこでそれは見せる実験として取り入れました。
宮園:英語を教えてきた経験自体は17年ほどあるのですが、やはりオンラインで教えるという経験はなくて。かつ相手が見えないじゃないですか。そこがすごく難しかったです。英語の場合は会話のキャッチボールをしたり、練習してもらったりする必要がありますが、その反応が見えないので、つまずいているのどうかがかわからないんですよ。
ーリアルで授業をされるよりも、オンラインのほうが大変だと感じられた点について、詳しく教えてください。ー
宮園:何よりプレッシャーになったのが、参加してくれた子ども達の期待に応えられているかという点です。英語って、中学校で英語を学習し始めて、文法が嫌いになって英語嫌いになったというパターンをよく聞くじゃないですか。私が教えることによって、英語っていうものが難しいと感じてしまわないか、その不安が結構大きかったですね。
杉山:私は普段の仕事でZoomでの授業は行ったことがあるのですが、ライブ配信というのは教える方法の中でいちばん難しいなと感じました。やはり、反応が見えないというところですね。コメントとしては見えるんですけど、思ったようなコメントが上がってこない場合には、本当に伝わっているのかな?という迷いを感じることもありました。
家庭教育のこれから
ー今回の休校によって、学校だけでなく家庭での教育についても見直されるきっかけになったのではないかと思います。これからの家庭教育において、どのようなことが求められると感じていますか。ー
岡田:ちょうど1年生になる息子がいるんですけど、4月に入学式ができないまま、課題がどっさり出て急に勉強が始まったという状況でした。親としてはどういうふうに勉強を始めていいのかがわからず、最初の勉強の入り方というのは、今まですベて学校に任せていたんだなとすごく思いました。
石島:算数に関して家でできることとしたら、言葉を調べることかなと思いますね。算数の専門用語とか、そこにまつわる言葉を調べるという点であれば、親がサポートできる部分ですし、それだけでも十分かなと思います。算数も結局わからない言葉がほとんどつまずきのポイントなんですよね。
岡田:そうですね。国語の授業では辞書の調べ方をやったんですけど、親ができる最初の簡単な家庭学習のポイントって、もしかしたらここにあるかもしれないなと思いました。日頃の会話の中で、難しい言葉ってよく出てくると思うんですよ。テレビでもマンガでも、普通の会話の中でも。そんなときに「これってどういう意味かわかる?」と問いかけて、一緒に辞書で調べてみる。「こんな意味があるんだね」というようなやり取りができれば、それが家庭教育の第一歩なのかなと。
西田:理科に関することとしては、理科の学習内容というのはなかなか日常と結び付けられないことも多くて、そのためによくわからないから嫌いになる子どももいます。日常にどれだけ結び付けられるかというのは、家庭の中でどれだけ体験や経験があるかに関係してくると思うのです。例えば野菜を栽培してそのつくりを調べたり、キャンプで火を観察したり、そういった機会を作ってあげるのが、子どもにとってすごく大事になってくるのかなと僕自身は思います。
宮園:英語に関しては、正直家庭でできることは限られていると思うんですよ。親御さんが無理して正しい発音を教えるというのは限界があります。それよりは、先子どもたちががんばったことに対してそれを褒めてあげる、やる気を引き出してあげるというのが重要だと思うんです。
「オンライン学校」のこれから
ー今後、もう一度「オンライン学校」の取り組みを始めるとしたら、次はどのようなことに取り組みたいですか。ー
石島:楽しめるコンテンツづくりを心がけたいですね。親しみのある絵を使ったり、子ども達の間で話題になっているキャラクターを使ったり。実際にやってみて、それだけでも全然違ったんですよね。そこのアイデアを作るために、もっと仲間も必要だと思います。
杉山:もし可能なら、ちゃんと顔が見えるZoomの授業もあってほしいとも思います。さらに、疑問に思ったことについて、「自分はこうしてみた」とアウトプットできる場もあったらおもしろいですね。
斉藤:そうですね。やはり学びに参加しないと意味がないと思っているので、子ども達が能動的に企画をしたり参加をしたりする仕組みをつくりたいです。これからの教育って、何が正解かということではなく、自分の意見を持てるか、問を作れるかというところが重要ですよね。これから必要な能力をちゃんと養えて、でも学校の勉強からは逸れない、というところを企画していけると良いと思います。
西田:家庭の学習というところでいうと、体験や経験の場を親御さんにつくってもらうということがすごく大事だなと思っています。それにつなげられるように、授業もつくりたいです。だからこそ、親御さんと子どもが一緒に受けれるような授業を企画し、授業が終わった後に、お母さんお父さんもわからないから一緒にやってみよう、という機会が作れたら良いなと考えています。
ー最後に、主宰の及川さん、香坂さんのこれからの考えをお聞かせください。ー
及川:この「オンライン学校」はどんどん進化させていく必要があります。斉藤さんが言ってくれたように、アウトプットの授業もこれからはやっていきたいですね。
例えば、日本の昔話について後日談のストーリーを作り、それをプレゼンしてどれが一番共感を得れるか議論をする。または、政治について学んだ後、「参議院、衆議院って何だ」「大統領と首相って何が違うんだ」というようなことを、自分の言葉でわかりやすく解説したり、さらに議論を重ねたりする。
そういった、世の中にある「何で?」をちゃんと考えられるような、社会に活きる総合学習にも、今後は取り組んでいきたいと思いますね。
香坂:そういうアウトプットの授業で人に説明するとなると、かなり深く理解していないとできないので、そういう場はもっと必要だと思います。
あともう一つ設けたいのが、本当の意味での実社会との接点です。教科として、学校として、社会から切り離されないということですね。そこをどうデザインしていくかが今後求められるところだと思っています。
今回は特別授業という方法で取り組んだわけですが、それだとまだ講師と児童・生徒との距離感があると感じています。極端な例ですが、困っている会社や困っている地域などの問題を取り上げ、解決方法をみんなで考えていく、というような授業があってもおもしろいのではないでしょうか。出てきたアイデアを、実際に自治体にプレゼンをするなど。
そういう本当にリアルな実社会との接点をどう作ってあげるかというのが、今後チャレンジしていきたい課題ですね。
(本連載は今回で終了となります。)
この記事の著者
■香坂 公嗣(こうさか まさし)さん
株式会社グローレン 代表取締役
18歳で実家を飛び出し、やりたい事が見つからずに1年近く放浪する。
20歳で大学に入学し、生物化学を専攻、25歳で大学院(修士課程)を修了。35歳で起業することだけを決めて、就職活動へ。自分の生い立ちを振り返った時に、恩師と思える人との出会いが転機になっている事に気づき、「教育」分野に興味を持ち、企業内教育、人材育成の分野を学ぶために人事系コンサルティング会社に入社。その後、外資系大手通信会社に転職し、世界規模で展開する企業の教育や世界における日本の立ち位置、多様性などを肌で感じる。在職時に副業として、子ども向け英会話スクールなどの運営等も携わり、子どもたちの可能性や才能の豊かさに触れる。35歳を機に退職し、教育分野での起業を決め、株式会社グローレンを創業。現在は、教育格差問題や地域活性化など様々な社会課題を「事業を通して解決する」ため多数のプロジェクトを行っている。
■及川 政孝(おいかわ まさたか)さん
株式会社シーエフエス 取締役/子別指導塾Abilis 代表
学生時代は勉強嫌いでずっと座っていることができず授業を妨害するのは日常茶飯事。「なんで勉強するの!?」と常に思っていた問題児。社会人になり約10年間で延べ1万人の経営者と出会い社会で必要な力は学校の成績とほとんど関係ないことを知る。様々な学びをする中で”学び方”というものに出会い勉強嫌いが無くなった経験から幼少期から「なぜ学ぶのか?」そして「どのように学ぶのか?」を身に付ける必要性を感じ学び方を伝える子別指導塾をスタート。その後公立中学校の学習支援授業にも関わる。その他日本各地に家庭内共育を浸透させるための講演会も開催中。【社会は企業がつくり 企業は人が創り 人格は家庭で創られる】のポリシーのもと事業を通じて社会課題に取り組む中小企業のコミュニティも運営し多面的な角度から持続可能な社会構築のため挑戦している。
本連載は今夏に書籍化・出版を予定しています
本記事連載は、Webで繋がって作る100ページ本の出版を通して、コロナを乗り越えてゆく挑戦・活動を伝えるプロジェクト「SHIFT challenge book」で書籍化を予定しています。
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