「見えないものの見える化」や「学び直し」の工夫。学びの楽しさを伝える様々な仕掛け(連載第4回)
2020年7月30日 18:24
2020年3月、突然の休校により一変した教育現場。子ども達が奪われた「学びの場」を取り戻すため「オンライン学校」という新しい教育プロジェクトが立ち上がりました。既存のe-learnigとは異なり、リアルタイム配信、学びの本質の追求、双方向のコミュニケーションにこだわった画期的な取り組み。Withコロナの時代、これまでの学校と家庭の役割を見つめ直し、新しい教育の在り方を考えるきっかけとして、この記事を広く活用していただけることを願っています。
本記事の原稿は、コロナで学校の休校が始まった2020年4月に開校した、オンライン上(Facebook)で学校を提供するプロジェクト「緊急開校 オンライン学校」の立ち上げメンバーの方々に寄稿していただきました。
休校によって子どもたちが自宅に閉じ込められ、生活リズムと学びの習慣が失われていることに危機感を持って集まった有志によるこのプロジェクトは、最終的には延べ1000名を超える参加者を含む、大きな活動の輪となりました。
本記事を掲載する現在、多くの学校は再開していますが、このプロジェクトで実施された様々な学びの企画・実験は、今後の子どもたちの学びや教育を考えるうえで重要なヒントを多く含んだものになっていると考えております。
連載4回目の今回は、3回目に引き続き、「学ぶ楽しさ」を子どもたちに実感してもらうため、先生たちが試行錯誤したオンライン授業が面白くなる仕掛けについて、ご紹介いただきました。
「緊急開校 オンライン学校」Webサイト
https://peraichi.com/landing_pages/view/online-school
(グーテンブック編集部)
プロジェクトWebサイト「緊急開校 オンライン学校」
本記事でご紹介していただいたプロジェクト「緊急開校 オンライン学校」のWebサイトです。
「【アフターコロナへ】緊急開校!オンライン学校の取り組み」の記事一覧
本連載の1~3回目はこちらからお読みいただけます。
学びの楽しさを伝えるための工夫と仕掛け
「オンライン学校」では、「学びの本質」を提供することに力を入れてきました。我々は「学びの本質」を、「学ぶ楽しさ」でもあり「なぜそれを学ぶのか?」といった問いに対する一つの回答でもあると捉えています。
「学ぶ楽しさ」をどう実感してもらうか。試行錯誤の中、様々な工夫と仕掛けを考えて実践してきた成果を、前回に引き続き以下にお伝えします。
見えないものやイメージを”見える化”する
イメージできないものに対して、人は楽しいと思いにくく、その先を学ぼうという考えが生まれません。そのため、ただ教科書に書いてある文字を並べるだけでは子ども達は退屈し、すぐに授業をドロップアウトしてしまいます。
そこで我々の授業では、あるあるネタやイメージしやすいイラストを多用し、「見えないものを見える化する」ことでおもしろさを実感してもらえるよう工夫しました。ときには実験なども取り入れ、実感を伴った理解につながるよう意識しました。
歴史の授業では、ピンチの乗り越え方と題して北里柴三郎氏の人生を紹介しました。
「日本の医学者・細菌学者・教育者・実業家であり、『日本の細菌学の父』として知られ、ペスト菌を発見し、破傷風の治療法を開発するなど、感染症医学の発展に貢献したすごい人!」と伝えても、子ども達にその偉業は伝わりません。
そこで、「北里さんはその当時誰も治せなかった病気のバイ菌と戦ってくれた人」ということから「明治時代のアンパンマン」という表現を使用しました。すると「確かにアンパンマンだ!」「すごい!!!」というコメントや「いいね」マークが大量に飛び交いました。
一見して難しい内容もわかりやすいイラストやみんながわかる例えを使うことで視聴者の方々からも「おもしろい!」「すんなり頭に入る!」「中学生の内容だけど小学生でもわかるよ!」などのたくさんのコメントをいただきました。
算数の授業では、四角形について学びぶました。そんな中で「ひし形」にも触れました。これまで何度も「ひし形」という言葉に触れてきた子ども達に「ひし形」の由来を聞いてみましたが、わかる子どもはいませんでした。おそらくもっというと大人でもさえわかる人は少ないと思います。
実は「ひし形」という名称は「ひし」という植物から来ているということを画像を使って説明しました。画像で見せることで、子ども達からは「ひしっていう言葉にちゃんと意味があるんだ」「これからひし形を見るたびにこの画像を思い出しそう」「わかりやすい!!」などたくさんのコメントが寄せられを頂きました。
わからない授業の根本「言葉がわからない」を解消
楽しめない、つまらない授業の根本には、「良くわからない言葉がたくさんある」という原因があると考えられます。これは、アメリカの教育者でもあるL.ロン ハバードの、『基礎からわかる勉強の技術』(ニューエラパブリケーションズジャパン 2003年)でも紹介されています。そこで、「オンライン学校」では、授業中わからない言葉があったら、動画を止めて辞書で調べるということを、授業の最初の約束として決めました。そして、すべての授業に参加する際の持ち物に、国語辞書を入れました。
「算数で国語辞書!?」と思われる方もいましたが、算数・理科の授業中であっても、わからないときにはとにかく辞書を引いて調べてもらう時間を作るようにしました。
また、この「オンライン学校」は、在宅勤務で子どもと一緒に見られているという親御さんも多くいたため、親御さん向けには、子どもの辞書を選ぶポイントなどをお伝えしました。
しっかり言葉の意味を理解できると、理解したことを人に説明ができるようになります。
授業の最後には、今日の授業でどのようなことを学んだのかを、自分の言葉で親御さんに説明してもらう時間も設けました。
わかる楽しさを取り戻す「学び直し」
筆者は公立中学校指導、塾経営を通じて、多くの子どもが実際の学年よりも低い学年の理解でつまずいているということを体感してきました。実際の学年は中学2年でも、小学3年の割り算でつまずいているというようなパターンです。
この経験から、「オンライン学校」ではスタート当初、あえて具体的な学年設定はせず、「かけ算」「方程式」などのテーマのみ提示することにしました。学年設定をしないことで、学び直しをする手助けができればと考えました。
また、授業の途中でも、わからないことがあれば「わからない!」というコメントを気兼ねなく記載できるような空気作りを心がけました。五分に一度は参加者に問いを投げかけ、とにかく一方通行型の授業にならないように徹底したのです。
ただし課題もありました。多くの親御さんから「対象は何年生ですか?」というお問合せをたくさんいただいたのです。そのようなご意見をふまえ、途中からは対象学年を提示することにしました。ただし、少し広めに「小学4年生~6年生」などとして、目安としての提示としました。
これには先述のように「学び直し」を意識している背景があります。「オンライン学校」は学校教育ではありませんが、その分授業の内容に自由度を持たせられることがメリットの一つです。
学習指導要領では、かけ算は小学2年で学習すると決められていますが、小学5、6年になっても、かけ算につまずいている子どもがたくさんいるのは事実です。対象学年の幅を持たせることで、学び直しをする子ども達が「実際より低い学年の勉強をするなんて、頭が悪いのかな」などと悩むことなく、フラットな気持ちで学んでもらいたいと考えています。
(次回へ続く)
この記事の著者
■香坂 公嗣(こうさか まさし)さん
株式会社グローレン 代表取締役
18歳で実家を飛び出し、やりたい事が見つからずに1年近く放浪する。
20歳で大学に入学し、生物化学を専攻、25歳で大学院(修士課程)を修了。35歳で起業することだけを決めて、就職活動へ。自分の生い立ちを振り返った時に、恩師と思える人との出会いが転機になっている事に気づき、「教育」分野に興味を持ち、企業内教育、人材育成の分野を学ぶために人事系コンサルティング会社に入社。その後、外資系大手通信会社に転職し、世界規模で展開する企業の教育や世界における日本の立ち位置、多様性などを肌で感じる。在職時に副業として、子ども向け英会話スクールなどの運営等も携わり、子どもたちの可能性や才能の豊かさに触れる。35歳を機に退職し、教育分野での起業を決め、株式会社グローレンを創業。現在は、教育格差問題や地域活性化など様々な社会課題を「事業を通して解決する」ため多数のプロジェクトを行っている。
■及川 政孝(おいかわ まさたか)さん
株式会社シーエフエス 取締役/子別指導塾Abilis 代表
学生時代は勉強嫌いでずっと座っていることができず授業を妨害するのは日常茶飯事。「なんで勉強するの!?」と常に思っていた問題児。社会人になり約10年間で延べ1万人の経営者と出会い社会で必要な力は学校の成績とほとんど関係ないことを知る。様々な学びをする中で”学び方”というものに出会い勉強嫌いが無くなった経験から幼少期から「なぜ学ぶのか?」そして「どのように学ぶのか?」を身に付ける必要性を感じ学び方を伝える子別指導塾をスタート。その後公立中学校の学習支援授業にも関わる。その他日本各地に家庭内共育を浸透させるための講演会も開催中。【社会は企業がつくり 企業は人が創り 人格は家庭で創られる】のポリシーのもと事業を通じて社会課題に取り組む中小企業のコミュニティも運営し多面的な角度から持続可能な社会構築のため挑戦している。
本連載は今夏に書籍化・出版を予定しています
本記事連載は、Webで繋がって作る100ページ本の出版を通して、コロナを乗り越えてゆく挑戦・活動を伝えるプロジェクト「SHIFT challenge book」で書籍化を予定しています。
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