5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (36)
2020年7月17日 17:06
コピーライターは嗜好性商品を担当する際、ターゲットの共感獲得を狙って、恋愛コピーを書くことがあります。
【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (35)
「恋は、遠い日の花火ではない。」(SUNTORY OLD)
「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」(LUMINE)
などがそうです。前者は加齢とともに理解と期待が高まっていくコピー、後者は女の情念が発露する新しい場所に気づかせてくれたコピーです。
中年課長が若い女性部下から思わせぶりな言葉をかけられて、オレにもまだワンチャンあるのか!と誤解させてくれたり、試着室でオレのこと思い出されちゃってるかもぉ~~と妄想させてくれたり、そんな微かな夢を見させてくれる。それが正しい恋愛コピーと言えます。
また、これら2つのコピーは「恋愛発動期の機微」を表現しており、人をポジティブに高揚させる効果があります。
■(38)普遍的なストーリーへ没入させるために、共有できる「切実さ」を探す
過日、ビクターエンタテインメントのT腰プロデューサーから電話をいただき、髙橋真梨子さんのニューアルバム告知の制作依頼を請けました。新聞15段とポスターでした。
楽曲はラブソング。ターゲットはバブル世代以上ですから、コピーもビジュアルも、アダルトオリエンテッドに進めるのがセオリーです。
バブル世代と言えば、職種よりも企業名を先に名乗る世代(※イメージ)。ブランド志向で何事にも理想が高く、虚栄心が強い(※イメージ)。ホイチョイ・プロの見栄講座と気まぐれコンセプトで育った世代ですから。そんな偏見に満ちつつも、あながち間違いではない仮説から、私はコピーを開発していきました(画像1)。
「恋には大事なことが三つある。出会い方、別れ方、そして、忘れ方。」
冒頭で紹介した2つのコピーがポジティブな「恋の予感、恋の始まり」で書かれているのに対し、私は「恋の終わり」、そう、恋愛終末期の辺りでコピーを書いてみたのです。
出会いと別れ。この過程には「相手」が存在しています。しかし、「過去の相手を忘れる」という後始末においては、自分ひとりで進行しなくてはなりません。すでに彼と別れているワケですから、「あなたの忘れ方、教えてよ…」といった重たいLINEなど当然送れません。理想的な「忘れ方」なんて無いからこそ、この最終工程に人は苦労するのです。
そもそも恋愛コピーというものは、何も提案しないし、解決もしない。誰かの何かを大きく変容させるものでもなく、そのほとんどが読み手の恋愛観に委ねています。大切なのは、その1行で、読み手1人ひとりが密かに抱える普遍的で切実なストーリーへと没入させることができるか。この1点に尽きます。
そのために、どの辺りの「切実さ」が人々と共有できるのか?人の気持ちに触ることができるのか?それを探り当てる作業の中で、私は「忘れ方」というワードを見つけました。「忘れる」ことは、次の幸せを構築する1歩であり、普遍的で未来的な行動なのです。