外国語学習のポイントは学ぶ順序にあった! 脳の変化を意識しながら学ぶ
2020年7月13日 16:11
言語学者で教育学者のスティーブン・クラッシェン(Stephen Krashen)南カリフォルニア大学名誉教授は、1980年代、外国語習得に関する5つの仮説を提唱した。そのうちの1つが、「インプット仮説」である。
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この仮説は、外国語の習得には、実力を少し上回るレベルの理解可能なインプットを大量に行うことが必須だという内容だ。教育という形式で文法や単語学習をしても、本当の意味での習得は難しい。外国語を身につけるには、子供が母語を覚えるように、できるだけ自然に学ぶことが良いと指摘した。
当時、クラッシェン教授の仮説は「検証不可能である」、「アウトプット学習やコミュニケーション学習を軽視している」と、多くの研究者から批判を受けた。しかしその後、言語脳科学が発達し、その仮説は、外国語学習の重要なポイントを的確に指摘していることが分かってきた。
脳神経外科医の植村研一氏は、脳の血流の動きを測るMRIを使った研究により、外国語を聞き取り理解するためには、大脳皮質のウエルニッケ感覚性言語野(聴覚性言語野)に、当該言語の言語野を形成する必要があることを突き止めた。そのためには、学習初期にリスニングのインプット洪水を浴びることが不可欠と説明した。
世界で最も著名なポリグロットの1人であるスティーブ・カウフマン(Steve Kaufmann)氏も、外国語学習は「多読多聴」から始める方法が最も効果的と主張している。詳細は下記の記事を参考にしてほしい。
脳生理学者の酒井邦嘉東京大学教授は、MRI やf MRI(機能的磁気共鳴映像法)という測定機器を使い、脳と言語の関係をさらに深く研究している。
酒井教授は、英語以外の様々な言語を母語とする95人を対象に、英文法の成績が良い人、悪い人の左脳と右脳45野における、体積の違いを調べた。45野とは、前頭葉にある発話や文法を司る部位で、ブローカー言語野(運動性言語野)とも呼ばれる。その結果、英文法の成績が優秀な人は、左脳の45野が右脳の45野よりも大きいということが分かった。左脳は言語脳と呼ばれ、言語機能の司令塔だ。
酒井教授の調べによると、今から100年ほど前に活躍していた、60カ国語を操る伝説的なドイツ人通訳者エミール・クレブス氏も、左脳の45野が、右脳の45野よりも明らかに大きかったという。このことから、通訳のように外国語の会話力が高い人材は、文法中枢の45野に発達した神経回路網が形成されているということが想像できる。
実験の詳細は下記の記事を参考にしてほしい。
教育学者のスティーブン・クラッシェン教授、ポリグロットであるスティーブ・カウフマン氏、脳神経外科医でバイリンガルの植村研一氏、そして脳生理学者の酒井邦嘉教授が、それぞれ外国語教育や外国語習得実践の現場、言語脳科学的実験結果からたどり着いた結論は、図らずしも一致していた。
それは、外国語は学習初期にリスニングのインプット洪水を徹底して行うことが、絶対的に大事だということだ。
私たちがこれまで外国語を学んできたように、「聞く」ができない状態で「書く」「読む」を学ぶことは、効率的ではない。なぜならば、酒井教授も指摘するように、「第2言語の音を身に着けていない初学者にとって、文字から発音や抑揚を予測することが極めて難しい」からだ。
最初に脳を変形させる勢いで正しい発音を、徹底的にインプットする。その後、その音を発しながら文字を書き、文法を習い、リーディングを進めることが、圧倒的に効果的なのだ。初期の読み書き学習は、「聞く」学習を補助する役割に止める必要がある。
酒井教授の調査結果から、通訳のようなスピーキングの達人は、会話や文法を司るブローカー野に神経回路網からなる会話の言語野を形成していることが、分かってきた。このことから、外国語は「話す、聞く、読む、書く」すべてをまんべんなく鍛える必要があるということが類推できる。
4つのどれかに特化した学習で、全体がレベルアップするということは期待できない。なぜなら、それぞれの機能が脳の一部に集中して1つの神経回路網からなる言語野を形成するわけではないからだ。各機能は、前頭葉、側頭葉などに散在しており、繰り返し学習で個別に神経回路網が形成され、言語野が造られるのだ。
外国語学習は、脳がどのように変化したかを意識しながら学ぶことによって、効率よく進められる。(記事:薄井由・記事一覧を見る)