高齢者の血圧が塩分の多い食事で上がるメカニズムを解明 東大の研究
2020年7月2日 11:31
高齢になると高血圧になりやすくなるということは、これまでも経験的にわかっていたが、その理由は不明だった。東京大学の藤田敏郎名誉教授、河原崎和歌子特任教授らの研究グループは、高齢者の血圧が上昇するメカニズムを明らかにしたと発表。今後は、新しい治療法や予防法の確立が期待される。
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今回の研究結果は6月29日のJounal of Clinical Investigationに掲載された。
高血圧を放置しておくと、心血管疾患や脳卒中などの原因になることがわかっているものの、大きな自覚症状がないため、未治療のまま過ごしてしまう人が多い。高血圧は加齢と共に増加していき、75歳以上の高血圧有病率は男女ともに70%を超えるという。
高血圧には食塩の摂取で血圧が上がる「食塩感受性高血圧」と、あまり変化のない「食塩非感受性高血圧」がある。高齢者では食塩感受性が多くなることがわかっている。ちなみに食塩をほとんどとらない文化の人々には、加齢に伴う高血圧が見られないという。
今回研究グループは、抗加齢因子として知られているKlothoタンパクに着目した。Klothoタンパクは、早老症のマウスで見つかった、老化を抑えるタンパク質である。主に腎臓で発現し、血液で運ばれて他の臓器でも作用している。
血中Klothoが低下している高齢マウスに食塩の多い食事を与えると、血圧が上昇した一方で、このマウスにKlothoタンパクを補充すると、血圧上昇が抑えられた。この食塩による血圧上昇は、Klothoタンパク補充の他、血管収縮の阻害薬Wnt阻害薬によっても抑えられた。Wntとは19種類同定されている分泌性のタンパク質で、今回関連しているのは血管の収縮を強める働きをしている。
さらに摂取したナトリウム(食塩)は腎臓を通って尿として排泄されるため、腎血流量を調べた。高食塩食を与えた高齢マウスやKotho欠損マウス(遺伝子操作でKlothoを作れなくしたマウス)では、Wntによる血管収縮増強によって腎血流量が減っていたが、これらのマウスにKlothoを補充すると、改善したという。
これらの結果から、若いころにはKlothoタンパクがWntによる血管収縮を抑えることで、高血圧の発症を抑えていることがわかった。
現在研究グループは、老化抑制と高血圧発症予防として、Klotho補充やWnt抑制薬の開発を進めている。今後、血中Klothoの測定が、高血圧やその合併症の予知マーカーとして利用されることが期待される。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)