ソフトバンクGがとばっちり!? 破産を申立てたワイヤーカードとの関係は?

2020年6月26日 17:22

 今を時めくフィンテックの雄として、欧州で絶大な力を誇っていたワイヤーカードが、破産申し立てに追い込まれた。ドイツを代表する決済サービス事業者として、世界の3万以上の企業にモバイル端末を使ったオンライン決済などを提供してきた。決済サービスと言えば日本でも「なんとかペイ」という新興サービスが急速に利用拡大を進めているところだ。

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 19年1月に英フィナンシャル・タイムズ(FT)が内部告発者の情報を基に、ワイヤーカードでの不正会計疑惑を報道したのが始まりだった。偽造された契約書で不正な取引が行われているとするもので、アジア太平洋地区の統括幹部が不正を主導していると伝えられた。ワイヤーカードは、お決まりで型通りの説明で不正行為の存在を強く否定した。

 ワイヤーカードはその年の4月に普通株に転換できる転換社債(CB)を発行した。当初、ソフトバンクグループ(SBG)がこの社債発行に絡んで資金を出しているかのように伝えられた。実際はソフトバンク・ヴィジョン・ファンド(SVF)の運営を行う、ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズ(SBIA)が運営する別ファンドが、約9億ユーロ(約1100億円)社債発行を引き受けた。その資金は、SVF幹部であるラジーブ・ミスラ氏やアクシェイ・ナヘタ氏が個人で拠出した分と、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ政府系ファンドのムバダラ・インベストメント(アブダビファンド)の出資分をまとめたものだ。

 ムバダラ・インベストメントは、SVFの10兆円ファンドとして知られる巨大ファンドに、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンドと共に合計4.8兆円もの出資をした実績がある。19年4月と言えば、SVFが空前の利益計上を発表する時期であり、SVFの両幹部やアブダビファンドの高揚感も最高潮に高まっていただろう。

 SVFは当時、既に投資予定金額に達していたため、両幹部が個人として出資したように読み取れる。アブダビファンドとの配分割合は不明だが、政府系ファンドとタイで合計約9億ユーロ(約1100億円)、と伝えられる出資の一翼を担ったSVF幹部2名の資力は相当のものだ。

 19年9月に終了したこの取引で、SVFの幹部とアブダビファンドは約76.8億円(1ユーロ120円換算)の利益を手にした。リスクも極力抑えられていながら、年利換算で10%を軽く超える運用利益を計上したのだから関係者の満足感は高かっただろう。

 SBGは取引終了後の10月に、ワイヤーカードのマークス・ブラウン最高経営責任者(CEO・当時)に、書簡で特別監察を強く迫ったと伝えられている。自らが関わった取引の終了後に、特別監察を強く求めたというところに違和感を覚える向きもあるだろうが、結果としてはSBGによるこの要請がワイヤーカードに隠されていた病根を抉り出すキッカケとなった。

 現在報道されているところを総合すると、過去の決算で売上の水増しを続け、その売上と整合性のある預金残高証明書が偽造されていたと読み取れる。フィリピンの信託銀行にあるとされる預金残高が確認できないことが、決定打になったようだ。

 結果的には、とばっちりで名前を出されたSBGにとっては迷惑極まりない話だが、世界がSBGの動静に抱いている懸念の高さを知らしめることにもなった。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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