泣く子と地頭と監督官庁

2020年6月19日 16:49

 自動車メーカーは、「型式認定」を取得してようやく市場で販売可能な車を生産することが出来る。

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 現在の国土交通省となった旧運輸省時代には、「型式認定」取得に際し、いろいろ面倒な事象があったが、その棚卸をして見よう。

●速度警告装置

 現行車両にはもう装備しなくなったが、「速度警告」装置があった。

 高速道路の最高速度は、最近でこそ一部100km/hを超える速度が解禁されたが、1964年の名神高速道路一部開通以来、長年にわたってずっと上限は100km/hだった。車が次第に高性能化するにつれて、この速度を超過して走行する車も多くなった。

 因みに、1963年開通した名神高速道路では、一般的には2車線の左側が「走行車線」、右側が「追越車線」とされていた。

 原則として「走行車線」を走り、前の車に追いついて追い越す必要が発生した場合にのみ、後方の安全確認をした後、追い越す意思を示す目的で右に方向指示器を出して右側「追越車線」に入る。そして追い越しが完了するまで、「追越車線」走行中はずっと方向指示器を出しっ放しにする。

 前車の追い越しが完了すると、十分な車間距離を確保した上で、左に方向指示器を出して、元の「走行車線」戻るということになっていた。

 殆どの場合、前車を追い越す際には100km/h以上の速度で走行することになる。

 そこで、100数km/h(多分107 ~115km/hだった)になると、「速度を超過した」と注意喚起する目的で、「速度警告装置」を装備することが義務付けられた。義務化当初は、ブザーがけたたましく鳴るタイプであった。

 そこで、「速度超過」をドライバーに注意喚起するのに不快感を伴うブザーである必要は無いから、チャイムにして申請した。すると当時の運輸省から「チャイムの様な心地よい音色は具合が悪い」とクレームがついた。

 「注意喚起するのに不快感を与えるブザーにする必要は無いだろう」と反論して、結果的には、言い分が認められて、速度警告はチャイムとなった。そして他社にもチャイムが普及した。

 余談だが、このチャイムも煩わしいので、筆者は新車を注文した際には、内緒でチャイム部分をテープで包んで「コツコツ」と微かな打音だけにして貰った。

●ナンバープレートは車体正面中央

 当時は、「ナンバープレートは車体正面中央に付けなければならない」とされていた。

 キャブオーバートラックは、ステアリンシャフトが車体前部に近く、角度も立っている。下部にあるステアリングギアボックスは、何も遮蔽カバーを設けなければ、バンバー下部より少し顔をのぞかせる。そのままでも支障は無いが、目隠ししてやる方が見栄えが良い。

 そこで、ナンバープレートを右側運転席正面に少しオフセットさせれば、ナンバープレートでステアリングギアボックスが隠れるので、別に遮蔽目的のカバーを設けなくて済む。

 ところが、どうしても「ナンバープレートは車体の正面でなければならない」とされて、結局余計な遮蔽カバーを付けざるを得なかった。

 現在はアルファロメオなど、ナンバープレートが正面でない車種もあり、軽自動車の場合はナンバーを真正面に付けている車の方が少ない位になっている。

●フロントグラスの封入アンテナが視野を妨げる?

 他にも、安全合わせガラス製フロントガラスの、2枚貼り合わせてある中間層の部分に、馬の尻尾の毛よりも細いアンテナを封入して、外付けアンテナを廃したモデルを申請した際には、驚くべき反応があったとか。

 有能なお役人様は、「そのアンテナ部分が前方視界を妨げない証明をしろ」と主張したとか聞いた。

 常識で考えても、目の前に髪の毛程の細いアンテナがある為に、前から来る車やバイクが隠れて見えなくなるなんて、想像できるだろうか?どんな方法、測定手段で、「これでも前から来るバイクは隠れませんね?」とかの証明をするのだろうか。

 勿論これは目出度くOKとなったが、監督官庁がへそを曲げると、とんでもないところでしっぺ返しを受けて、業務に支障を来すので注意が肝要だと言われていた。

 「泣く子と地頭には勝てない」とはよく言ったものだ。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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