リチウムイオン電池から析出の金属リチウムを非破壊で検出 KEKらが方法開発
2020年6月18日 17:19
リチウムイオン電池は今や生活に欠かせないものの一つであるが、発火や爆発などの事故が多発していることから、安全性の向上が求められている。事故の原因の一つとして、負極表面にリチウムが金属状態で析出することが知られており、電池内部の金属リチウムの検出が重要となる。高エネルギー加速器研究機構らの共同研究グループは16日、その金属リチウムを非破壊で検出できることを実証したと発表した。
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リチウムイオン電池は、イオンとして存在するリチウムが正負極の間を行き来することによって、充放電が進行する。しかし電池の使用条件によっては、そのリチウムが還元され、金属の状態で負極上に析出することがある。金属状態のリチウムは容易にイオンに戻ることがなく、容量低下を引き起こす。さらに、リチウム金属は針状に析出することが多いため、電池の短絡を引き起こし発火や爆発などの事故の原因となる。
一般に、非破壊で金属原子を検出する際には、X線を照射した際に検出される「蛍光X線」を分析する手法が用いられる。しかしリチウムのような軽元素は、蛍光X線のエネルギーが低く、容器を透過させて検出することが難しかった。
そこで共同研究グループは、蛍光X線の代わりにリチウムの「ミュオン特性X線」に着目した。高エネルギー加速器研究機構は世界で唯一、リチウムイオン電池のミュオン特性X線元素分析が可能な施設を開発。そして、析出した金属リチウムと通常通り負極の電極内に存在するリチウムイオンとで、異なるミュオン特性X線が得られることが確認された。
今回の実験では、あらかじめ金属リチウムの析出が起きた電極をラミネートで包み、電池を模倣した状態で分析を行った。金属缶などの厚い容器の分析は原理的に難しいが、ラミネート型のような薄い容器のリチウムイオン電池には十分応用可能である。
今後は電気自動車などの普及によって、使用済みのリチウムイオン電池が多く市場に出回ることが予想される。金属リチウムの析出は使用済みリチウムイオン電池において特に多く発生するため、今回の成果を活かした新たな分析技術の応用が期待される。
今回の研究成果は5月29日付の「Analytical Chemistry」誌オンライン版にて掲載されている。