三菱スペースジェット納入問題! (1) 機体完成の見通しが立てられない

2020年6月12日 13:07

 スペースジェットの納入時期が見通せない三菱重工業には、計画段階で発生した2つの痛恨の判断ミスというボタンの掛け違いが未だに尾を引いている。

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 1つ目は17年に5度目となる納入延期を発表した際に、三菱重工業の宮永俊一社長(当時)がいみじくも口にした、「我々には旅客機製造に関する知見が足りなかった」という言葉に象徴されている。

 長年防衛省向けの戦闘機を手掛けていた三菱重工業は、民間機である旅客機を戦闘機より下に見ていたようだ。極限の状況で能力をフルに発揮する戦闘機を製造しているというプライドが、戦闘機と航空機の設計ノウハウが大きく相違しているとの理解を妨げた。

 いざ開発に着手した直後に、簡単にはクリアできない大きな壁の存在を認識したものの、17年時点でも型式証明を取得できないでいた大きな要因だ、という思いが膨らんだ。その無念さが、5度目の納入延期を発表する社長の口からこぼれたと見るべきだろう。

 2つ目は、既に初回の納入延期を発表して開発の苦しみを感じていた10年に、ボーイングの幹部から「737のコクピットを使ったらどうか」と持ち掛けられていながら、当時の三菱航空機の幹部が一笑に付してしまったことだ。「何が何でも国産で!!」という想いが、合理的な判断を鈍らせた好例である。

 5回目の納入延期を決定したワケは、主に機体に張り巡らせる配線の見直しだった。現在の航空機は電子制御で飛行している、と表現されることが妥当な段階にあり、スペースジェットもその例に漏れず、機体に張り巡らされている配線数は2万3000本に及ぶ。その微細な配線に至るまで安全性を立証するのは、完成機メーカーに課せられた責任だ。

 三菱重工業では完成機メーカーが採用しているオーソドックスな思想によらない、自己流の配線方法を開発当初から続けていたが、型式証明の審査が近づくにつれて「自己流の配線方法」で、安全性を立証することの困難さを思い知らされた。何しろ5回目の納入延期につながる配線の見直しだから、簡単に決定した訳ではないだろう。当時の宮永社長が口にしたという「航空機製造の知見」という根本的な問題に直面したのが17年だった。

 機体全体の2万3000本という配線をすべて見直すという作業は、新型機を1から設計し直すのと同じ労力が必要だと言われる。その配線問題を克服するために3年の歳月をかけて製造された10号機も、配線問題は潰し切れていないと言う。その結果、新型コロナウイルス問題が発生する直前に決定された6度目の納入延期発表の際には、納入時期を「21年以降」という表現にしている。

 口さがない向きには「納入時期の縛りがなくなった」という表現をする者もいるが、販売先である航空会社が待っている以上、なるべく早くという原則は変わらない。2万3000本という膨大な配線の安全証明も時間をかければいずれ終了するという期待が、納入時期の明示を避けさせた。

 納入時期に明確な縛りがなくなってしまった背景を深読みしても詮無いことで、伝えられていない課題が発覚したのかも知れないし、組織全体のモチベーションが低下した結果と受け取ることもできる。明確なのは全体の進捗状況を把握して、完成時期を明示できる責任者の存在が見えないことだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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