TDK、通期は減収減益 米中関係の悪化やコロナが電子機器の生産や電子部品の需要に影響
2020年6月2日 19:06
2020年3月期 通期決算のポイント
山西哲司氏(以下、山西):山西でございます。本日はご多忙のところ、また、このようなWebを通しての不自由なかたちでの開催になりましたが、当社の2020年3月期通期連結業績の説明会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。それでは、私より連結業績概要についてご説明いたします。
まず、決算のポイントです。米中関係の悪化により、昨年末に向けて日を追うごとにその影響が激化し、中国をはじめ、世界経済の減速が鮮明になっていた中、第4四半期には新型コロナウイルス感染症拡大により、各国の経済活動が停滞しました。電子機器の生産、また、電子部品の需要に、期初には想定していないほどの大きな影響が及んでいます。
その結果、売上高は前期比1.4パーセントの減収、営業利益は前期比9.2パーセントの減益となりました。年間を通して、世界的に厳しい需要環境の中、二次電池は期初からICT市場の需要を確実に取り込み、アプリケーションの拡大によって販売拡大を続けた結果、エナジー応用製品が増収増益を確保し、売上高、営業利益ともに過去最高を更新しています。
米中貿易摩擦に大きく影響を受けた自動車や産業機器市場においては、需要が低迷し、期初から想定を大きく下回る需要水準で推移した結果、受動部品の多くの製品や、センサ応用製品の中でも、とくにコンベンショナルなセンサ製品の売上に大きく影響が出た一方、ICT市場の需要は堅調に推移し、ICT市場向けの売上は前年同期比で増加しました。5G向け需要増加を背景に、二次電池や高周波部品がスマートフォン及び基地局向けに販売を拡大したため、増収増益を確保し、全社収益を牽引しました。
第4四半期においては、自動車及び産業機器市場における需要低迷が長期化し、短期的に収益の大幅回復が困難な状況と判断したため、磁石及びアルミコンデンサの製造設備の減損損失を約165億円計上しました。さらに開発体制の見直しにより、余剰設備約18億円の減損損失を計上しています。
2020年3月期 連結業績概要
次に業績概要です。対ドルなどの円高為替による売上高は約407億円の減収、営業利益で約31億円の減益影響を含み、売上高は1兆3,630億円、前期比188億円で1.4パーセントの微減となりました。営業利益は減損損失183億円を含み979億円、前期比99億円で9.2パーセントの減益となっています。税引前利益は959億円、当期純利益は578億円、1株当たり利益は457円47銭となっています。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、第4四半期において工場稼働の停止、出荷停止などで売上が約280億円、営業利益が約120億円の影響を受けたと試算しています。為替の感応度については従来と変動なく、営業利益は、円とドルにおいては1円の変動で年間約12億円、円とユーロについては約2億円と試算しています。
2020年3月期 各事業の状況(受動部品事業)
続いて、セグメント別の状況についてご説明します。受動部品の売上高は3,955億円、前期比8.7パーセントの減収、営業利益は391億円、前期比33パーセントの減益、営業利益率は9.9パーセントとなりました。
期初より継続しました米中貿易摩擦の影響で、自動車、産業機器市場の需要が低迷しました。また、欧米の大手代理店の在庫調整の影響も加わり、自動車、産業機器売上構成の高いセラミックコンデンサ、インダクティブデバイス、圧電材料部品・回路保護部品、アルミ・フィルムコンデンサの売上が伸び悩み、減益となっています。アルミ・フィルムコンデンサにおいては、需要低下による生産能力余剰により、第4四半期で減損損失約21億円を計上しています。
一方で、ICT市場の需要は期初から好調に推移し、中国を中心とした5Gの立ち上がりも本格化してきており、第4四半期に新型コロナウイルスの影響で数量減少となったものの、高周波部品は増収増益を確保しています。
2020年3月期 各事業の状況(センサ応用製品事業)
次に、センサ応用製品事業です。成長戦略事業として、前年から売上拡大を目指してきましたが、全体としての売上は前期比1.8パーセントの微増にとどまり、営業利益は赤字が拡大しました。内容的には、景気に大きく左右され減収となった製品と、成長戦略に乗って売上を伸ばしている製品に大きく分かれます。世界的な自動車、産業機器市場における需要低迷の影響で、温度センサ、ホールセンサといったコンベンショナルなセンサの売上が低調に推移し、前年から売上が大きく減少したため、収益も悪化しました。事業全体損益にも大きな影響を及ぼしています。
一方、成長を期待している戦略製品であるTMRセンサは、自動車向けの採用も進み、数量増加で着実に売上が拡大しています。スマートフォン向けでも、新モデルへの採用も確実に進捗しており、売上が拡大し黒字も定着してきています。また、MEMSセンサでは、モーションセンサが新規得意先への売上を着実に増加しています。MEMSマイクロフォンも、スマホ向けやIoT向けなどに売上を伸ばしていますが、十分な売上拡大はしておらず、収益貢献には至っていません。
2020年3月期 各事業の状況(磁気応用製品事業)
続いて、磁気応用製品事業です。売上高は2,197億円、前期比19.5パーセントの減収、営業利益は4億円となり、大幅減益となっています。HDDヘッド・HDDサスペンションにおいては、HDDの総需要が前年から減少した結果、HDD用のヘッドの数量も約4パーセント減少しました。HDDの組立については、2.5インチ向けを中心として、HDDヘッド・HDDサスペンション全体において約18パーセントの減収であり、減益となっています。しかしながら、ニアライン向けなどの高付加価値製品の増加もあり、収益性は前年から向上しています。
マグネットについては、HDD用の磁石の減少、産業用ロボット、工作機械向けなどの産業機器市場、及び自動車市場の需要低迷の影響により売上が減少しました。収益については厳しい状況が続いており、第4四半期において減損損失は約144億円を計上しています。
2020年3月期 各事業の状況(エナジー応用製品事業)
続いて、エナジー応用製品です。当期売上高は5,977億円、営業利益は1,241億円となり、前期比11.2パーセントの増収、36.4パーセントの大幅な増益となりました。営業利益率は20.8パーセントであり、収益性も大きく上がっています。
二次電池については、スマホ向け全体の売上が大幅に増加し、タブレット、ノートブック向けも堅調に推移しました。さらにワイヤレスイヤホンなど、ウェアラブル向けのミニセルも順調に販売を拡大しており、前年比約15パーセントの増収となり、収益性も向上しています。産業機器用の電源については、景気減速によって設備投資の需要減少の影響を大きく受けており、産業機器市場向け売上減少で減益となっています。
営業利益増減分析
続いて、営業利益99億円減益の増減分析になります。新型コロナウイルスの影響による減益約120億円を含み、売上数量増加で115億円の増益となっています。売価値引き影響約150億円を、合理化コスト改善191億円によって吸収しています。また、約16億円の構造改革効果と合わせ、体質強化によって収益向上に貢献しています。
InvenSenseの買収関連費用は当年54億円であり、前年から増減はありません。二次電池の事業拡大にともなう管理費及び開発費が約104億円の増加、為替変動による減益31億円、さらに、減損損失136億円によって、最終的に99億円の減益となっています。
2020年3月期 セグメント別四半期実績
続いて、第3四半期から第4四半期のセグメント別の売上及び営業利益の増減要因について説明します。まず、受動部品セグメントですが、売上は第3四半期から1.3パーセントの減少ですが、新型コロナウイルスの影響を除き、約2パーセントの実質的な増加と試算しています。全体的にICT、産業機器ともに減少しているものの、5G基地局向けのセラミックコンデンサ、高周波部品は売上を伸ばしています。営業利益については約37パーセントの減益となっていますが、コロナウイルスの影響、アルミ・フィルムコンデンサの減損を除けば、約9パーセントの実質な増加と試算しています。
次に、センサ応用製品ですが、売上は7.9パーセントの減少、営業利益は15億円の赤字増加となっています。自動車市場向けについては若干増加しているものの、スマホ向け数量の減少により、全体では減収となっています。営業利益については、コロナウイルスの影響でラインストップも発生しましたが、その影響を除けば減収による減益で約14パーセントの減益となっています。
次に、磁気応用製品セグメントです。売上は、第3四半期からHDD用のヘッド販売数量の減少約6パーセント、及び組立販売の減少、HDD用のサスペンションの販売数量の減少もあり、10.5パーセントの減収となっています。磁石の売上は約5パーセント減少しています。営業利益については、減損損失の144億円及びコロナウイルスの影響を除き、販売数量減少の影響で約35パーセントの減益と試算しています。
次に、エナジー応用製品セグメントです。売上は第3四半期から26.6パーセントの減少となっていますが、コロナウイルスの影響を除いて約15パーセントの減少と試算しています。二次電池については季節的な需要減少の影響があり、産業用電源はほぼ横ばいで推移しています。営業利益については63.7パーセントの減益となっていますが、新型コロナウイルスの影響を除いて約49パーセントの減少と試算しています。実績については以上です。
Quarterly World GDP Growth
石黒成直氏(以下、石黒): 石黒でございます。まずは、このような変則的な決算説明会の開催にもかかわらず、多数のみなさまがご参加くださいまして、本当に感謝を申し上げます。早くみなさまとFace to Faceでお話をさせていただける日が来ることを、本当に心から祈っています。また、会社でもリスクマネジメントということで、役員もスプリットチームでがんばっています。1日も早く感染が終息することを願っています。
それでは、私より2021年3月期の連結業績の見通しについてご説明をします。まず、業績見通しを行なうにあたり、前提条件としました経済動向、ならびに主要デバイスの需要についてお話をしたいと思います。
このグラフは、今回私どもが見通しを立てるにあたって前提とした、GDPの見通しを表したものです。全世界ベースでは、2020年のGDPの成長率をマイナス4パーセントと見通しました。
地域別に見ますと、いち早く感染が拡大したものの、最も早い段階で一応の収束を見た中国は、第3四半期からは「コロナ感染拡大以前の経済環境に回復するであろう」と見通しています。しかしながら、日本を含む他の地域では、「経済の冷え込みについては第2四半期をボトムとして、下半期に向けては段階的に回復するものの、コロナ感染拡大以前のレベルには到達しないだろう」ということを前提としています。
私どもの事業が与える影響となりますと、市場の在庫等の関係もあり、「このGDP、経済の動きに対しての影響が、ことによると2ヶ月から3ヶ月くらい後ろ倒しに出てくるのではないか」と見るのが妥当ではないかと思っています。
2021年3月期の市場予測
次に、私どもの関係する主要なデバイスの需要前提について説明します。自動車については、商用車を含むFiscal Year2020年の市場規模を7,500万台、前期対比でマイナス14パーセントを前提としました。すでに一部市場では、「さらにマイナス幅は大きくなるのではないか」と言われる一方、「中国市場においては、早くも4月には前年同期で増加に転じた」という情報もあり、今後とも見極めが大切だと感じています。xEVの市場については、11パーセントの拡大を前提としました。
一方、ICT市場を代表とするスマートフォンですが、12億4,000万台、前期対比でマイナス9パーセントを前提としました。そのうち、5Gスマートフォンの台数は3億7,600万台です。昨年末ごろには、「2020年の5Gスマートフォン需要は4億台レベルになるのではないか」と言われていましたので、そのレベルからはやや下方に修正する見通しとしました。
その他、データセンターで使われるニアラインドライブは、HDD市場全体が縮小する中で唯一拡大を継続する見通しです。また、在宅勤務や在宅学習等で広く利用されるであろうPCやタブレットについては、横ばいから微増を前提としました。
一方、コロナウイルス感染症の影響は、単にマーケットの需要だけに表れるわけではありません。短期的には、感染拡大によって我々のサプライチェーンが直撃される影響、つまりは工場の不稼働などにも影響を与えかねません。現在私どもは、インドと東南アジアの一部の生産拠点において、政府の規制等で100パーセントの稼働が実現できていませんが、その他の地域の拠点については、ほぼすべて通常稼働を実現しています。
今回の見通しは、今後の生産稼働について通常の稼働ができること、さらに第2波、第3波といった感染の拡大がさらなる経済後退を生むことはない、ということを前提としています。売上全体では、2020年3月期に対して約5パーセント減の1兆2,900億円の見通しとしました。
2021年3月期 通期連結売上高増減イメージ
受動部品はもとより、自動車、産業機器市場比率がある一定のレベルであることを含め、受動部品については、7パーセントから10パーセントのマイナスを見込んでいます。受動部品セグメントの中では5G関連市場を中心に、高周波部品については堅調な成長を期待しています。
センサ応用製品は、顧客ベースの拡大と製品ラインアップの拡充を進めてきた結果、コロナ影響を含めても、8パーセントから11パーセントの成長を見通しています。従来からの温度・圧力センサ、ならびに車載用のホールICについては、市場の影響をややダイレクトに受け、大きな伸びを期待することはできないと考えていますが、これから成長が期待されるTMR磁気センサ・MEMSマイクロフォン・MEMSセンサについては、新規の顧客ならびにアプリケーションの開拓が奏功し、成長を期待しています。
磁気応用製品ですが、HDD用ヘッドにおいては、2.5インチならびに3.5インチドライブの市場が段階的に縮小することに伴い、弊社が請け負っています3.5インチドライブの受託生産数量も減少することなどを背景に、売上高は減少を見込んでいます。また、磁性製品については、xEV用の新規プロジェクトの拡大を期待していますが、自動車市場全体の後退で、売上を伸ばすことはなかなか難しいと見通しています。全体では15パーセントから18パーセントのマイナスを計上しました。
エナジー応用製品については、スマホ市場の縮小、電源事業に関係するインフラ市場の縮小はありますが、PC、タブレット、ならびにゲーム機を中心とする在宅市場は堅調であること、また、先年より開拓を進めてきましたミニセルやパワーセルの売上が、段階的に貢献することを前提に、ほぼ横ばいを見込んでいます。
2021年3月期 連結業績及び配当金見通し
ご説明しました前提条件に基づき、2021年3月期の連結業績をご覧のとおり予測しています。為替の前提は対ドル105円、対ユーロ117円とし、その結果、売上高は1兆2,900億円、約5パーセントの減収としています。新型コロナウイルスの影響で、売上高は影響前の需要環境を前提として算出した売上高に対して、年間で約1,800億円のマイナス影響があると見ています。そのマイナス影響も含み、営業利益については700億円、税引前利益も700億円、当期純利益については480億円、1株当たり利益379円99銭を計画しています。
2020年3月期の下期配当金はすでに発表していますとおり90円として、年間配当金180円を予定しています。2021年3月期の配当金については、1株当たり利益の水準や、配当性向30パーセントをめどとした今中期の株主還元目標を踏まえ、上期、下期とも80円とし、年間160円を予定しています。設備投資は1,800億円、減価償却費は1,400億円、研究開発費は1,200億円を見込んでいます。成長すべき分野への投資については、積極的に継続する考えです。今回はこうした特別な環境ですので、財務戦略の考え方について、山西より再びご説明します。
2021年3月期 財務基盤の強化に向けて
山西:このような不透明な需要環境の中、財務基盤をどう強化していくのかについてご説明します。2021年3月期の業績見通しについては、社長よりご説明したとおり、新型コロナウイルスの影響もあり、売上、利益とも前年を下回る見通しです。
2018年に公表しました中期計画の最終年度としての財務目標達成については、難しい状況となっています。中期期間の各年度においては、フリーキャッシュフロープラスを達成できる見通しですが、2021年3月期の収益の減少見通しにより、十分な水準に至らず、財務体質改善については遅延する見通しです。
2021年3月期も、将来の収益拡大を期待できる成長投資については優先的に実施していきます。それとともに、これまでの成長投資の確実な回収を図り、フリーキャッシュフローの拡大を確実に実現し、財務目標の早期達成を目指していきたいと思います。
一方、想定している需要環境の急速な変化にも備えるために、コミットメントラインの設定を含め、資金調達力は十分に確保しています。また、手元流動性も高め、不透明な需要環境においても事業活動を支えることができる財務基盤の強化を進めています。
また、株主還元については、先ほど社長からもご説明がありましたが、1株当たり利益の成長に至らず、2020年3月期に予定している1株当たり配当金を、年間180円から20円の減配予定としますが、当初設定していました配当方針に基づき、また、中期期間累計のフリーキャッシュフローの水準も踏まえ、中期期間の累計での配当性向30パーセントを目処として配当の提案をしています。
以上、私からの説明を終わります。最後に、石黒よりポストコロナに向けての考えをご紹介したいと思います。
エネルギー・環境問題への貢献
石黒:今回の新型コロナウイルスの感染拡大については、サプライチェーン上の問題をはじめ、長期的には消費市場に甚大な影響を与えていますが、それでもTDKが関与するエレクトロニクス市場については、幸い将来の成長が期待できると考えています。
先年の会社説明会でもお伝えしましたが、EX(エネルギートランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の大きな流れは、TDKが社会に大きく貢献できる世界をさらに拡大すると考えています。
EXの世界では、まずは徹底的にエコロジーTDKにしていきたいと思っています。デジタル技術も応用しながら、より少ないインプットで最大のアウトプットができるTDK、そして、再生可能エネルギーをより積極的に転換し、同時に、社会の省エネルギーと低炭素化に大きく貢献し、サステナブルなTDKを目指していきたいと思います。
データ活用による社会効率化への貢献
DXの世界では、まずはTDKをできる限りデジタル化したいと思っています。今回のパンデミックの発生で、世の中の常識や働き方等が大きく変わることに直面しています。テレワーク等についても、おそらく一般化していくのだろうと思います。また、デジタルマーケティング、インダストリー4.0、AIやマテリアルズ・インフォマティクス、RPA等もどんどん現場に入ってくると考えています。
人と人とのつながりや人間性を否定するつもりはありませんが、デジタルテクノロジーを応用すれば、時間と空間を超えて価値を創造できることが実感できるようになりました。物理的な移動時間を伴わずに、みなさまともこうしてコミュニケーションができることがわかってきました。設計、開発、モノづくり、マーケティング、スタッフ業務のあらゆる局面においてデジタル化を推進するとともに、社会のデジタル化のお手伝いをして、社会の課題解決に結び付けていきたいと思います。長くなりましたが、私からの説明は以上です。ご清聴いただき、ありがとうございました。