ソフトバンクGと孫会長の天国と地獄 (11) 元本保証・7%確定利回り付きの「投資」?
2020年5月22日 17:36
18日に開催されたソフトバンクグループ(SBG)の、20年3月期連結決算のオンライン会見で、孫正義会長兼社長は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が投資した88社のうち約15社が大きく成功し、約15社が倒産する。残りの約60社は可も不可もなしに終わる」と発言した。
【前回は】ソフトバンクGと孫会長の天国と地獄 (10) 弱り目に、祟り目 尽きない悪夢
5年~10年後の見通しなので、予言のような、神様のご託宣のように雲をつかむような話だが、絶好調だった19年3月期の88社の実績ですら、42%に評価益が計上され25%は評価損を計上したことを考えると、孫会長の発言には開き直りすら感じられる。
SVFの投資手法には、他のベンチャーキャピタルとの際立った違いがある。今後有望なライジングマーケットを総取りしようとしているかのように、業界の主だったプレーヤーに出資することだ。
狙った業界が思惑通りに社会に受け入れられた場合には、プレーヤーの多くにベット(賭けた)したSVFは必ず勝ち組、負け組と平凡な先の投資結果を満遍なく手にすることになる。業界全体が大きく拡大した10年後には、成功した企業の価値は途轍もないボリュームになっているかも知れない。その時には敗れ去った企業への出資分など気にならない程度の金額であろう。
潤沢な資金を運用する財力と、ひと時代を飽きずに待ち続ける忍耐力さえあれば、もはや「目利き力」などはなくても荒稼ぎできると、言われているような気がする。
競馬などの賭け事ではこの総取り方式は成立しない。出走前に掛金総額が確定してしまうことと、必ず胴元の寺銭が控除されるからだ。これに対して企業価値には理屈上の上限がない。「手に入れたい」という投資家が尽きるまで株価は上がり続ける。孫会長がアリババに当初提供した、たった2000万ドル(敢えて”たった”と表現する)が、今やSBGの命運を握るかのような存在になっていることがその証だろう。
将来問題が発生するとしたら、成功した企業の多くにSVFが関与することになるため、独占禁止法(反トラスト法)への抵触問題が発生する懸念だ。これとても、うれしい悲鳴であることは間違いのないことだが・・・。
SVFは第1期決算の18年3月期に3030億円、第2期決算の19年3月期に1兆2566億円の営業利益を計上するという、順調な歩みを見せてきたが、第3期となる20年3月期には1兆9313億円の営業損失を計上し、3期通算では3717億円のマイナスに沈んでしまった。
18年3月期と19年3月期に計上された利益は、投資元へ配当として還元されている。サウジアラビア(出資額450億ドル)の「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」と、アブダビ首長国(同150億ドル)の「ムバダラ・インベストメント・カンパニー」という政府系ファンド(サウジ・アブダビファンド)に対しては、7%の利払いもされている筈だ。
赤字の20年3月期にも、サウジ・アブダビファンドに対しては7%の利払いを実行しなければならない。投資の失敗は投資家が被ることが常識であるにも拘らず、SVFにおいてはサウジ・アブダビファンドの元本は保証されるとともに、7%の確定利回りが約束されているという破格の契約があるからだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)