月誕生の謎解明に近づくか 月から流出する炭素を世界で初めて観測 九大等
2020年5月8日 20:49
九州大学、大阪大学、熊本大学等は7日、月周回衛星「かぐや」の観測データから、炭素イオンが月の表面全体から宇宙空間に流出していることを、世界で初めて発見したと発表した。研究グループでは、今回の研究成果は、これまでの月誕生に関する定説であった巨大衝突説に再考を迫るものであると考えている。
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■月の誕生に関する巨大衝突説とは?
月がどのようにして誕生したのかについては、これまでさまざまな考え方が登場してきた。例えば、原始太陽系円盤から地球が誕生したときに、地球と一緒に誕生した説(兄弟説)や、他の天体が地球の引力によって捕えられた説(他人説)等である。
近年、有力化し定説となっているのは、巨大衝突説だ。この説によれば、月は、今から46億年程前に、原始地球に火星サイズの他の原始惑星が衝突し、飛び散った破片から誕生したことになる。ちなみに火星の大きさは地球の半分程度だ。
巨大衝突説は、月が地球のマントルと同じような岩石でできていることや、月の質量が地球の1/100もあること、さらに支持するシミュレーションの結果等から有力化し、現在では定説となっている。
巨大衝突説によれば、原始地球と原始惑星の衝突によって両者は溶解し高温化するために、揮発性物質は蒸発してしまい、月には揮発性物質は存在しないことになる。実際、これまで月には炭素等の揮発性物質は見つかっておらず、このことは巨大衝突説の根拠の1つとなっていた。
■炭素イオンが宇宙空間に流出していることを発見
今回、研究グループは、かぐやに搭載されたプラズマ質量分析装置の観測データを分析し、月の表面全体から炭素イオンが宇宙空間に流出していることを発見した。
また同時に、炭素イオンの流出量も見積り、陸(古い年代に形成された地形)よりも、海(新しい年代に形成された地形)から流出する炭素イオンの量の方が多いことも突き止めた。
研究グループによれば、このような地域差は、元々月に炭素が含まれているとしないことには、説明がつかないという。もし、本当に形成当時から月に揮発性物質が存在していたのならば、これまでの巨大衝突説は大きく再考を迫られることになるだろう。
一方では、現在ではコンピューターの発達と共に、シミュレーションの技術も進歩し、揮発性物質の存在を許す巨大衝突説のモデルも登場している。
研究グループでは、今回の研究成果は、このように新しく登場してきた巨大衝突説のモデル等によって、これまでの巨大衝突説を再考する大きな契機になるのではないかと期待している。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る)