なぜ香港は新型コロナウイルスを抑え込めているのか?日本と香港の差
2020年5月1日 15:23
*15:23JST なぜ香港は新型コロナウイルスを抑え込めているのか?日本と香港の差
日本では、「緊急事態宣言」が発出されて3週間が経過した。4月30日時点での感染者数は全国で14,088人、死亡者は415人にのぼっている。感染者数の推移を見てみると、緊急事態宣言以後も、全国で毎日300~750人程度の増加傾向を示している。特に、医療機関や福祉施設でのクラスターの発生や、家族内感染の問題が浮き彫りとなっており、国家として新型コロナウイルス感染の抑え込みに成功しているとは言い難い状況である。
2月13日時点では、日本の感染者が32人であったのに対し、香港の感染者は53人であったが、2月18日には日本の74人に対して香港の感染者が61名と、日本の感染者が香港の感染者数を上回った。香港では3月末まで、感染者がやや増加傾向にあったが、その後1日の増加が1桁台に減少し、感染者数が横ばいの状況となり現在に至る。4月29日現在の香港における感染者は1,038人であり、4日続けて感染者0人を継続し、また、死者は累計で4人であるが、3月29日以降は増加していない。日本では日増しに感染源が特定できないケースが増えている一方で、香港では感染源が特定されており、国内での感染は抑え込まれている。欧米のような「外出禁止を伴うロックダウン」を用いずに、新型コロナウイルス感染を抑え込んだ香港政府による政策対応を、日本の状況と比較してみよう。
2019年12月31日に、香港政府は、武漢で発生している原因不明のウイルス性肺炎について政府が対策を議論する専門家会議を開催した。一方の日本は、2020年1月30日、「新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置し、集団感染が判明し、その後、横浜に入港予定のクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」の対処準備を整えた。
香港政府は、2020年1月2日に、空港、鉄道での衛生措置や武漢市の市場訪問者の隔離を開始している。1月7日に、キャリー・ラム行政長官は、「(1)状況に応じた迅速な対応、(2)事態悪化を想定した準備、(3)情報開示と透明性の維持」という感染症対策3原則を明確に打ち出した。そして1月8日に『病気の予防と管理条例』の一部改正を行い、罰金や禁固など罰則規定について細部を規定し、1月15日に感染症対策の「専門家会議」を開催している。一方、日本では、1月27日に武漢で発生している原因不明のウイルス性肺炎を「指定感染症にする」と安倍首相が発表し、2月14日に「新型コロナウイルス感染症専門家会議」が設置され、国内の感染症対策が香港より約1ヵ月遅れて始動した。
1月25日、キャリー・ラム行政長官は、新型コロナウイルスへの警戒レベルを「厳重」から「緊急」に格上げし、空路、鉄道の武漢往復便の停止、春節期間内の行事の中止、全小中学校等の休校、マスク供給の円滑化の要請を行った。一方、安倍首相が休校要請を発出したのが2月27日、衛生マスク転売禁止及び罰則規定を発表したのが3月10日であり、これも約1ヵ月から1ヵ月半の遅れをとっている。
香港政府は、2月3日、出入境ポイントの閉鎖、武漢からの帰還香港居民への電子追跡機器(リストバンド)着用措置などの具体的対策を講じた。また、2月18日、伝染病予防及び防疫基金の増額を発表、2月26日、新予算案により、18歳以上の香港永住権所有者への1万ドルの支給措置を発表している。さらに、所得税・法人税の還付や免除、鉄道運賃の割引、家賃補助など各種補償の充実を図っている。日本では、3月13日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が成立し、総理大臣権限として各都道府県知事に対し「緊急事態宣言」を発出できる態勢となり、4月7日に「緊急事態宣言」が発出された。また、紆余曲折を経て、4月20日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策特別定額給付金(仮称)」により、住民基本台帳に記録されている者、一人につき、10万円の給付が閣議決定された。香港と比較し、意思決定の遅さが際立っていると言え、さらに遅れをとっている格好だ。
香港では、検疫所の検査で陽性になると自宅、ホテル、政府の指定施設での強制検疫となるが、多くの人が自宅にて検疫隔離するので病院に負担がかからない仕組みになっている。自宅検疫では自由行動になるが、QRコード付きのリストバンドの装着が義務付けられ、またGPSも常時オンにするなるため、外出が抑制されている。この方式により医療崩壊が起こっておらず、また、感染者の行動履歴等を活用しながら感染防止につなげているのである。日本では、医療機関におけるクラスターが多数発生しており、医療従事者の絶対的人数の減少という状況が発生している。また、「感染者の増加により医療従事者の負担が大きくなるとともにマスクや防護衣の供給が遅れており、首都圏、大阪圏及び福岡などでは、医療崩壊寸前の状況であると判断される」(日本医師会会長横倉義武氏)とのことである。
上記からは、香港における新型コロナウイルス感染抑制は、SARSの教訓、各種システムの積極的活用及び政府の迅速かつ強力なイニシアティブによるものと見ることができるだろう。一方、日本の場合は、習近平氏の来日や東京2020オリンピック・パラリンピックなどの国家的な行事日程等により、対応方針の決定を阻害または遅延させる要因があったのは確かであろう。衛生環境の良さやマスク着用、手洗い習慣など国民性から新型コロナウイルス感染拡大について油断が生じていたのかもしれない。しかし、「緊急事態宣言」発令後の封じ込め措置や給付金や協力金の配布などの措置が迷走し、後手に回ってしまった感は否めない。
4月28日、キャリー・ラム行政長官は記者会見で、5月4日より、以下のとおり2段階に分けて政府の行政サービスの再開等当面の措置を発表した。(1)大部分の香港政府公務員の通常勤務体制への復帰。(2)勤務・営業時間を通常時間に近づける。(3)屋外スポーツ施設、図書館等公共施設で4名を超える集会禁止規則に抵触しない前提で再開する。(4)会議・委員会等の再開。なお、海外からの非香港居民の入境禁止、中国本土等から入境した非香港居民で14日以内にそれ以外の海外滞在歴のある者の入境禁止、すべての航空便のトランジット禁止等入境に伴う措置は継続される。また、レストラン営業者等への20万香港ドル(1香港ドル=約14円)及び18歳以上の香港永住権所有者への1万香港ドルの支給についても変更されていない。
今後のためには、香港のような厳格な抑え込み、政府の厳しい決断や行動を見習い、近未来の日本の対応の見本にするというのも一案であろう。《SI》