生きた植物乳酸菌がアルコール中毒症状を回復 広島大らの研究

2020年4月15日 12:07

 プロバイオティクスという言葉を耳にしたことはあるだろうか。人や動物の健康に良い影響を与える生きた微生物のことを、プロバイオティクスと呼ぶ。広島大学の杉山政則教授らの研究グループは、植物由来の乳酸菌SN13が、アルコール中毒症状を改善するメカニズムを解明した。今後この乳酸菌を用いた、治療や予防に役立つサプリメントの開発が期待される。

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 乳酸菌には大きくわけて2つの種類がある。1つはヨーグルトやチーズに用いられている動物由来のもので、もう1つは果物や野菜、花などから単離された植物由来のものだ。動物性の乳酸菌と比べて植物性乳酸菌は、胃液や胆汁への耐性が高く、免疫調節の効果が大きいことがわかっている。

 研究グループはこれまで、1000種の乳酸菌の株を単離してきた。そのうちの1つ、乳酸菌SN13Tで発酵させたヨーグルトを用いた臨床試験を行ったところ、肝臓の状態を表す検査値であるγ-GTPを大きく低下し改善することがわかった。今回の研究では、この乳酸菌SN13Tがアルコール摂取にどのような効果を示すかを検討した。

 アルコールは大昔から人類と共にあり、ときには祭祀に用いられ、ときには医療に用いられてきた。しかしそれと同時に、アルコールの乱用は肝炎や膵炎、アルコール依存症の原因にもなる。アルコールを分解する酵素は主に肝臓に存在しており、分解によってできたアセトアルデヒドは肝臓の細胞を傷つける。またアルコールは肝臓に脂肪を蓄積させ、これらが肝硬変などの病気を引き起こす。

 今回の研究では、アルコールを付加した餌を与えたマウスを用いて、乳酸菌SN13Tの働きを検討した。すると、アルコールのみを与えたマウスでは肝臓の状態が悪化しアルコール中毒症状を起こしたが、SN13Tを同時に与えることで症状は回避され、マウスの生存日数が伸びた。この効果は加熱処理した死菌体SN13Tではみられなかった。つまり乳酸菌が生きていることが、この効果に重要なことがわかった。

 さらに、これらのマウスの腸内細菌嚢(腸内細菌の集まりのこと)を検討した。すると、アルコールを与えたマウスには腸管の炎症を起こす細菌が増え、腸を守る細菌が減っていることがわかった。さらに、組織が腐敗するときに出る物質が増えていた。一方アルコールと共に乳酸菌SN13Tを与えた場合、腸内細菌の組成の変化や腐敗物質の産生が抑えられた。

 これらの結果より乳酸菌SN13Tはアルコール摂取によっておこる腸内の変化を抑え、アルコールでおこる中毒症状を防ぐ働きがあることが明かになった。

 現在、研究グループはこの乳酸菌を生きた状態で常温保存する方法などの技術開発にも取り組んでいる。今後、生きた状態の乳酸菌が摂取できるサプリメントや薬が開発されれば、腸内環境を整えることにより、健康増進効果が期待される。

 この研究結果はInternational Journal of Molecular Sciencesに掲載された。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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