情報開示でわかる大学の就職力

2020年4月6日 18:07

 新学期が始まりました。新しく高校3年生になった生徒さんとその保護者の方々は、すぐに進路相談のための3者面談が行われます。やりたいことで大学を選ぶ人もいれば、偏差値で選ぶ人もいるなど、進路選択の方法は家庭により様々です。

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 そうした選択指標の一つとして、大学の就職率があげられます。ところがこの就職率がくせ者です。ある程度大学側で結果を操作できるからです。今回は、情報操作の行われ方と、情報操作があるかないかについての判別方法をご紹介します。

■文部科学省による就職状況の調査

 大学生の卒業後の進路については、文部科学省が毎年正確に統計調査を行っています(図表1参照)。直近の2019年度卒業生だと、卒業生は全体で57万2,639名です。うち、就職した学生は、「就職(正規)」「就職(非正規)」の合計44万6,794名となり、率に直すと78%ということになります。ですので、この算式は職に就いた人の数(注)を分子におき、分母に学生全体をおくことになります。

 ※注 一時的仕事を分子から除外して計算しました。これを含めるかどうかは、今回とは別の議論となるため、本稿では取扱いません。

■各大学独自の就職状況調査

 一般的に用いられている就職率は、就職希望者を分母とし、就職した人を分子としています。

 各大学は、大学3年生の春ごろ、全学生を対象にして進路希望調査を行います。したがって、学生ひとりひとりが就職を希望しているのか、進学を希望しているのか、まだ決めていないのかが把握できます。

 この個人の就職希望に関するデータは、文部科学省の調査項目には無いものです。見方を変えると、その大学以外には知りえないデータと言うことができます。

■就職率のマジック

 就職希望者は、文字通り就職を希望している学生を指すのですが、就職を希望していたが、大学院に進学することにした人や、当初は進学を希望していたけれども、就職することにした人については、どう扱えばよいでしょうか。

 人の気持ちや状況は変化するものですから、正確を期するなら、大学は毎月調査を行えば良いのですが、現実問題、そういうわけにもいきません。そこで、学生が卒業した時点の最終調査を行う際に、「判定」が行われます。つまり、就職希望者に含めるのか否かという「判定」です。この判定基準が曖昧であるため、意図を持って就職率の分母を操作することが可能になるわけです。

 特に就職状況が悪化しだすと、就職が決まらずにニートやフリーターとして卒業を迎えた学生は就職希望者から除外されます。また、就職が決まらなかったから大学院や専門学校に入学した人も、進学希望者としてカウントされるため、就職希望者からは除外されます。

■正しい情報が開示されているか判別するには

 こうした就職情報の操作は、学生を集めるために苦心している大学ほど多く見られる傾向があります。では、どうすれば正確な情報開示が行われているかどうか、判断することができるでしょうか。

 判別方法は、大学が公開している情報で、次のような細部のデータがあるかどうかです。

 1.学部(学科)ごとの卒業生数
 2.学部(学科)ごとの就職者数
 3.学部(学科)ごとの進学者数
 4.学部(学科)ごとの就職希望者数
 5.学部(学科)ごとの「一時的仕事」の数
 6.学部(学科)ごとの「その他」の数

 これらの項目は、全てが公開されていれば、信頼性が高いと言えます。また、項目が1つ欠けるごとに信頼度は低くなります。公開すると都合が悪いからです。

 また、情報アクセスの便利さも信頼度の評価ポイントとなります。

 多くの場合、大学ホームページ内のキャリアセンター情報の中に、就職率に関するデータが公表されています。大学ホームページ内に情報がなければ、「法人」の「事業報告書」に記載されています。その場合、アクセス便利性が劣ることになります。更に、事業報告書にも、就職率しか記載していない大学も現実に存在します。そうした大学は、信頼度は最も低くなります。

 高校生が大学受験をする場合は、関心ある大学の数が限られていますので、さほど難しい作業ではないと思われます。もっとも、本分である勉強と異なり、保護者が手助けしてあげても良い分野なので、手分けして調べてみるのも良いかも知れません。こうした場合でなければ、事業報告書に目を通す機会もあまりないでしょうから。

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