「こころを読む」能力を初めてサルから特定 自閉症治療法確立に貢献 新潟大など

2020年4月3日 07:29

 厚生労働省によると自閉症の症状をもつ人の割合は、約100人に1人いるといわれている。だが自閉症の背後にある脳のメカニズムについて謎が多いという。新潟大学は1日、ヒト科の動物以外で初めて、他者のこころを読む能力があることを実証したと発表した。

【こちらも】自閉スペクトラム症と統合失調症の発症メカニズムにオーバーラップが存在

■自閉症スペクトラム障害

 発達障害のひとつである自閉症スペクトラム障害(以下、自閉症)は、他者の考えや気持ちを汲むことや、空気を読む能力の発達が遅れていることが特徴である。他者のこころを理解しているかどうかを確かめる方法のひとつとして、「誤信念課題」がある。相手の誤った信念を理解し、相手の行動を正しく予測できるかどうかが誤信念課題によって確認される。

 誤信念課題を行っている際に、内側前頭前野を含めた脳の回路が広範囲で活動することが、脳の画像研究によって明らかにされた。だが他者のこころを理解する機能と直接因果関係をもつ脳の部位は、特定されてこなかった。

■ヒトにもっとも近いマカクザルで実験

 新潟大学、量子科学技術研究開発機構、福島県立医科大学の研究者らから構成されるグループが注目したのが、神経科学のモデル動物としてヒトにもっとも近いマカクザルだ。誤信念課題を解く能力をマカクザルが有していれば、脳の活動と行動の因果関係が判明できるのではないかと考えた。

 研究グループは、マカクザルの一種であるニホンザルに動画を見せることで、誤信念課題を与えた。神経機能を抑制する遺伝子を内側前頭前野に発現させたサルと、正常なサルに動画を見せ、眼の動きにより誤信念に基づく相手の行動を予測できているかどうかを調査した。

 その結果、正常なサルは視線に偏りが確認され誤信念課題をクリアしたが、神経機能を抑制させたサルからは視線の偏りに変化が認められず、他者のこころを理解できないことが判明した。

 自閉症の原因となる脳回路の全容は、今回の実験では明らかにされていない。今後は神経機能を抑制する遺伝子をピンポイントで発現させ、内側前頭葉のどの経路が他者のこころの理解と結びつくかの解明が期待される。これにより病態が解明され、治療法の確立に貢献するだろうとしている。

 研究の詳細は、Cell Reportsにて3月31日付で掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

関連記事

最新記事