弁護士の常識は、社会の非常識? (3) 面会簿に署名して逃亡を謀議する奴は”本当に”いないのか?
2020年3月27日 13:28
東京地検の斎藤隆博次席検事は1月30日の定例会見で、「ゴーン被告が逃亡幇助の嫌疑ある人物と弁護士事務所で面談した記録があるから、事務所で逃亡の協議を行った疑いがある」との見方を表明した。
【前回は】弁護士の常識は、社会の非常識? (2) 弘中弁護士はゴーン被告に”落とし前”をつけるべきでは?
これを受けて、弘中惇一郎弁護士は「弁護士事務所の面会簿に署名して、逃亡を謀議する人はいない」と地検の見方を否定し、「弁護人には面会者の素性を確認する法的義務はない」と述べた。さらにゴーン被告が事務所内で来訪者と面談する際に、「弁護士や事務所スタッフは同席していない。横で監視する義務も、合理的な理由もない。話し合いの内容は事務所側には分からない」と加えている。
平たく言うと、誰が来てどんな話をしても、弁護士事務所には関係ない、ということになるだろうか。
弁護士の事務所で、面会簿に署名して逃亡を謀議するような人はいないと、端から決めつける姿勢に、弘中弁護士が感じている後ろめたさを察知することは難しくない。
東京地裁が地検の猛反対を押し切ってゴーン被告の保釈を認めた理由の中には、弁護側が提案した”保釈条件”に対するそれなりの納得感があった筈だ。保釈条件は、(1)住宅は東京都内の予め届け出をした住居に制限(2)パスポートは弁護士に預け、海外渡航は禁止(3)事件関係者との接触は禁止(4)住居に監視カメラを設置(5)携帯電話は通話先を限定し、ネットとメールは不可(6)パソコンは弁護士事務所内に設置されたネットに未接続のもの、となっていた。
弁護士が提案する保釈条件だから、弁護士が責任をもって保釈中の被告を管理してくれると期待することは、中学校の模擬法廷以外では似つかわしくないと教えてもらったようだ。
弘中弁護士が記者に語った「弁護人には面会者の素性を確認する法的義務はない」という言葉と、保釈条件の「事件関係者との接触は禁止」という項目とに大きな隔たりを感じる人は少なくないだろう。「素性を確認しないで、どうやって事件関係者でない」と判断できるのだろうかということだ。
ゴーン被告の保釈が話題になった際には、保釈を厳格に運用する日本の司法制度に対して、「人質司法」という不本意な表現が飛び交っていた。東京地裁が海外の批判的な雰囲気に迎合した訳ではないだろうが、多少弾力的な運用を始めた事案で早速躓いてしまった代償は小さくない。
弁護士が提案して裁判所が認めた事柄でも、こんなに大きな解釈の相違が存在した上に、責任の所在を追求しようとする動きが表面化していないことに、割り切れなさを感じる。
考えられることを全て法律化できる訳ではない以上、”法律に抵触していなければ問題ない”と言い放って恥じない弁護士の姿勢に、違和感を覚える人は少なくないだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)