ソフトバンクGと孫会長の天国と地獄 (9) ソフトバンクGとヴィジョンファンドに漂う懸念!

2020年3月13日 20:31

 ソフトバンク・ヴィジョン・ファンド(SVF)の投資家が資金を回収へと方針転換した場合、余資をほとんど持たないSVFに実質的な当事者能力はない。

【前回は】ソフトバンクGと孫会長の天国と地獄 (8) ソフトバンクG株が大幅下落!

 SVFが手に負えなければ勧進元のソフトバンクグループ(SBG)の対応が注目されるのは当然だが、含み益のかたまりとして虎の子扱いのアリババ株であっても、SBGが市場に放出すると伝わった時点で即座に大幅な株価の低下に見舞われて、含み益はあっという間に蒸発するかもしれない。

 通信会社のソフトバンク株を追加して手放す事態になれば、SBGにとって数少ないキャッシュフローである配当収入が、ますます細ることにつながる。結果は「勘定合っての銭足らず」という古典的な、黒字を計上しながら手許現金が足りないために行き詰ることすら懸念されてしまう。

 現在のSBGにとっては、サウジアラビアに限らず10兆円の1号ファンドから資金を引きあげる投資家が出現すること自体が、途轍もない脅威になってしまった。

 ファンドから離脱しなくとも、サウジの政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)からの出資には、破格の7%という確定利回りが付されているため、SVFは決算ごとに3000~4000億円の現金を捻り出す必要がある。キャッシュフローを生み出すことが出来なければ、SVFはわが身を削ってタコ配するか、SBGからの支援を受けなければ、PIFに対する利払い資金にすら事欠く懸念がある。

 20年3月末の決算までには多少の日数を残しているが、新型コロナウイルスにしても原油価格の下落にしても、問題解決への近道はないだろう。たとえ道筋が見えたとしても、大きく変調した世界経済の枠組みが元の状態に戻るには、数年単位の修復期間が必要だ。

 新規株式公開の再開を社会が受け入れるようになるまで、PIFへの利払いを続けることが大きな負担であることは間違いない。

 信者のような個人投資家に目利きを信奉される孫会長であっても、今回の事態を察知してリスク回避を成し遂げることは至難である。凡夫が株価の急落に慌ててナンピン買いを行って傷口を広げ、その後は塩漬けに追い込まれてしまう例は珍しくないが、19年秋にウィーワークを立て直すために約1兆円の支援を行い、現在は調達した株式を塩漬けにしているSBGとの間にあるのは、規模の違いだけだ。

 しかもウイーワークのビジネスモデルであるコワーキングスペースは、新型コロナウイルスが暴れまわる絶好の舞台である。感染が終息して人々の記憶が遠のくまでの間、新型コロナウイルスへの恐れが事業展開のネックになることは明らかだ。

 ウィーワークはリストラを行って来年度には収支を均衡させると伝わっていたが、ステージが激変している現在ではシナリオも変えなければならないだろう。

 SBGは順風に乗って含み益を膨らませ、膨らんだ含み益が次の投資を更に活性化させる好循環を謳歌してきた。そんな時期には投資した事業先の創業者に粗相があっても、鷹揚な解決策を模索する余裕もある。

 歯車が逆回転した現在は、全く反対の事態が加速度的に襲いかかる。SBGに逆風に立ち向かうための有効な準備があったのかどうか、20年3月末の決算がどんな形になるのかを懸念する投資家は、期待と不安の狭間で苦悶している。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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