レッサーパンダは系統発生学的に2つの種に分類されるという研究結果
2020年3月1日 19:54
遺伝子解析の結果、レッサーパンダが系統発生学的に2つの種に分類されるという中国科学院の研究グループによる研究成果が発表された(論文、 BBC Newsの記事、 The Guardianの記事、 CNNの記事)。
レッサーパンダは形態学的・生物地理学的な違いにより、ヒマラヤ系のネパールレッサーパンダ(Ailurus fulgens)と中国系のシセンレッサーパンダ(Ailurus styani)の2亜種に分類されてきた。2亜種を独立した種に分類することも提案されているが、遺伝学的証拠がないことで論争が続いている。過去にミトコンドリアDNAやマイクロサテライトのマーカーを用いてこの問題を解決する試みが行われたものの、ヒマラヤ系のサンプル数が非常に少なかったことや、遺伝子マーカーによる解析の限界から失敗に終わっていたという。今回の研究では次世代シーケンシング技術を用い、野性のレッサーパンダ65頭(うちオス49頭)から採取したサンプルの全ゲノムおよび49頭分のY染色体とミトコンドリアDNAを分析。ヒマラヤ系と中国系では遺伝子的に大きな差異があることが判明したとのこと。
中国系のレッサーパンダはヒマラヤ系と比べて頬骨の幅や頭蓋骨の最長部がはるかに大きく、前頭骨の出っ張りも大きい。また、毛の赤みが強く、尾のストライプ(輪)がよりはっきりしているといった特徴がある。2亜種の生息地は中国(チベット~雲南)・ミャンマー・タイを流れるサルウィン川で分かれると考えられていたが、今回の研究ではこれを否定する結果が出ている。境界としては中国(チベット)・インド・バングラデシュを流れるヤルンツァンポ川が有力だという。ただし、この仮説を証明するには今回のサンプルに含まれていないブータンとインドのサンプルを調査する必要がある。また、2種に分類されることが判明したことにより、種の保存の観点からは個別の計画を立てる必要が出てくる。特にヒマラヤ系は個体数が少なく、遺伝子的多様性が小さいことから早急な対策が必要になるとのことだ。