ソフトバンクGと孫会長の天国と地獄 (7) ”株主価値”を信じたら天国か?
2020年2月15日 14:46
ソフトバンクG(SBG)がユニコーン企業への投資を得意としている根拠の象徴的な例は、アリババ株に代表される膨大な含み益だ。孫正義会長自身が「ソフトバンクGの最大の物差し」としている株主価値(保有株価値から純有利子負債を引いた値)が、2月12日に昨年9月末比で5兆円増加して25兆円となったという。
【前回は】ソフトバンクGと孫正義会長の天国と地獄 (6) 第3四半期に純利益計上? スプリントの合併?
19年の第2四半期決算でウィーワークから生じた巨額の損失が明るみに出ても、マーケットに大きな動揺が見られなかったのは、ひとえにこの膨大な含み益にあると言って良いだろう。
ユニコーンがIPO(株式の新規上場)に臨む際に、株式の多くを握る創業者にとって最大の関心事は、自分が育てた企業が社会にどれほどの価値があると認められることだ。
社会の評価は株数×株価=企業価値として、明快に数字で表現される。どんな人だって、より大きく評価されたいと期待するのは当然だろう。IPOの幹事会社にとっても、幹事報酬の手数料が調達金額に手数料率を乗ずることで算出されるため、株価はより高い方が望ましい。
上場する企業と上場させる業者の双方に株価を引き上げる暗黙の力が働く。気前の良い出資者が関わってIPOまで到達すると、マーケットの実態からかけ離れた企業価値の値付けではないのかと、戸惑う声が出て来る。
上場後の実勢価格が初値と釣り合わない実例には事欠かない。事業実態から乖離したかのような高い企業価値を評価されたウィーワーク(IPO自体は延期されたが)や、ウーバーが好例だ。
SBGには評価を決定する上での厳密な社内プロセスと、算出結果を監査法人がチェックする仕組みもあると主張するが、システムがあることと期待通りに機能するかどうかは全くの別物だ。
SBGにとっては、取得した株の価値が上昇することが、投資の成功を意味する。より高い株価で取引すると、おのずと自社で保有していた株式に含み益が生まれるところに、マーケットとの思惑の違いが生まれる余地がある。
孫会長が記者会見で語った有名なフレーズに「もはや私は会計上の売上とか純利益とかに目線を置いて経営をしていない。株主価値を最大の物差しとしている」がある。個人株主の心をくすぐる有難いお言葉だ。
”株主価値が上がる”というのであれば、何となく安心してしまう気持ちは理解できるが、冷静に考えると、”株主価値(保有株価値から純有利子負債を引いた値)”に対するコンセンサスは世界にも日本にも存在しない。
孫会長が稀代の経営者であることに論を俟たないが、独創的なのロジックで廻りをけむに巻く話法にも飛び抜けたセンスをお持ちのようだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)