突然変異細胞を体外に排除する仕組み解明 がん予防薬の開発に期待 北大
2020年2月7日 08:55
北海道大学は1月31日、正常な細胞が、がん化の超初期段階にある突然変異細胞を、細胞競合により体外に排除する仕組みを解明したと発表した。研究チームでは、がん化の超初期段階において体内で何が起こっているのかを解明することにより、がん予防薬の開発につながるのではないかと期待している。
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この研究結果は、1月31日、Current Biology誌にオンライン掲載された。
■細胞競合とは?
細胞は、遺伝子に突然変異が蓄積することによって、がん化する。したがって、遺伝子の突然変異が十分に蓄積するまでは、仮に遺伝子に突然変異が生じていても、直ちにがん化するわけではない。
ところが突然変異細胞は、遺伝子の突然変異が十分に蓄積しておらず、まだ完全にがん化していなくとも、周囲の正常な細胞によって体外に排除されることが知られている。
このように細胞が異質な細胞を細胞組織から排除することを「細胞競合」という。私達の体には、免疫システムの他にも、細胞競合によってがんを予防するシステムが備わっているということになる。
しかしこのように、正常な細胞が突然変異細胞を細胞競合によって排除するときに、どのような分子が、どのように働くのか、その詳しい仕組みついてはこれまでよく解っていなかった。
■カルシウムウェーブが細胞競合を促進
そこで研究チームは、正常な細胞が突然変異細胞を細胞競合により細胞組織から排除するときの、カルシウムイオン濃度を測定した。すると、突然変異細胞を中心にカルシウムイオン濃度が同心円状に高まっていくことが確認された。
研究チームではこの現象を「カルシウムウェーブ」と呼んでいる。このカルシウムウェーブを受けた正常な細胞は、突然変異細胞に押し寄せ、突然変異細胞を細胞組織から押し出し体外に排除する。
こうして、がん化の超初期段階において、正常な細胞が突然変異細胞を細胞競合により体外に排除することで、がんが予防されるというわけだ。
正常な細胞が突然変異細胞を細胞競合によって排除する働きを強める低分子化合物は、すでに発見されている。このような低分子化合物についての研究がさらに進み、がんの予防薬が開発されれば、進展著しいがんの遺伝子診断と結びつくことで、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)は著しく向上することになるだろう。これからの研究の進展に期待したい。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る)