三菱スペースジェット納入が6度目の延期か ”終わりの見えない戦い”に展望はあるのか? (2)

2020年1月30日 17:30

 19年6月には手垢の付いたMRJという名称を三菱スペースジェット(以下、MSJ)に変更、90座席級の機体で型式証明を取得した後に、その機体を基に70座席級の機体を開発することが正式に発表された。その時点で北米市場に投入できる70座席級の主力MSJは、22~23年に納入することが見込まれた。

【前回は】三菱スペースジェット納入が6度目の延期か ”終わりの見えない戦い”に展望はあるのか? (1)

 今回6度目の納入延期が現実となった場合、その期間は2年程度と考えると、90座席級の初号機がローンチカスタマーである全日空に納入されるのが21~22年になり、90座席級の機体を基に開発される70座席級の主力機種の納入開始は、24~25年年頃になるものと思われる。

 但し、6度目の納入延期には明確な期限が設定されない可能性もある。今までその場凌ぎのように設定してきた期限が、全体の進捗を弾力的に見直す足枷(あしかせ)になっていたという反省と、「その後はない」という強烈な危機感があるからだ。反面、明確な期限が設定されない納入延期という事態を、航空会社が受け入れるのかという懸念もある。

 40~50年前には「10年ひと昔」という戒めがあった。社会の移り変わりが穏やかな当時ですら「10年も経つと周囲の景色は一変し、技術は様変わりしている」というのが一般的な認識だった。MSJの場合は、目まぐるしく変化を続ける時代に、通算で15年もの年数を数えることになる。

 MSJを発注済みの航空会社の中には、機材の導入計画を変更する事態に追い込まれている先も珍しくない。

 契約が履行されずに不利益を被った航空会社が、三菱航空機に求めている補償の内容は分からないが、契約不履行という負い目を抱えてながら、受注数を減らしたくない三菱航空機に実質的な交渉能力が残されているとは考えられない。交渉内容は公表されていないが、相当の譲歩を求められていると考えるべきだろう。

 今回の納入延期時点で期待されるスケジュールが順調に進行したとしても、MSJは旧MRJの事業化決定から、15年後にやっと北米市場に投入されることになる。想定される懸念も深刻だ。

 受注している航空会社が、最短でも5年もの長き間、キャンセルの誘惑を振り切って寛容にMSJを待ち続けてくれるのか。

 設計との整合性を確保した上で、できる範囲で最新の部材や部品に更新装備された機体を、航空会社の期待にそうような現代的な仕様にできるのか。

 15年前の設計に組み入れられた装備が型式証明に縛られて変更もできずに、「時代遅れ」と感じさせる懸念はないのか。

 18年3月期の時点で三菱重工業が行ったMSJへの投資は、6000億円に達すると伝えられ、20年までに2000億円の追加投資が必要だと言われてきた。今回、6度目の納入延期が現実のものとなり、全体のスケジュールが2年程度伸びるとすると、投資額が更に加算され総額では1兆円を突破することは避けられない。

 果たして1兆円を超える投資を、回収する可能性があるのだろうか。

 17年、18年の暦年(1~12月)で2年連続世界第1位の納入実績(小型ジェット機部門)を続けている好調なホンダジェットですら、未だに単年度黒字を計上するに至っていない。現状の好調な売上げを5年程度継続して、一定規模のユーザーを抱え込んだ上にメンテナンスやアフターサービスを合算してようやく、単年度収益が計上できる見込みであることを考えると、MSJの見通しは非常に厳しいと言わざるを得ない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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