拡大する次世代パワー半導体市場に新たな動き SiCパワー半導体の普及に追い風

2020年1月26日 19:34

 次世代パワー半導体として注目されるシリコンカーバイド(SiC:炭化ケイ素、以下、SiC)の業界において、大きな動きがあった。SiC製品のリーディングカンパニーであるローム〈6963〉が、同社のグループ会社で、欧州においてSiCウエハ生産量シェア1 位を誇るSiCrystal社から、世界的な半導体メーカーとして知られるSTマイクロエレクトロニクス社へ、今後数年間にわたって、SiCウエハを供給する契約に合意したことを発表した。SiC市場を牽引するこの2社が長期の供給契約を結び、需要増加に対応できる安定した供給体制を整えたことにより、車載市場および産業機器市場におけるSiCの普及が加速するという見方が強まっている。

 SiCが注目される背景には、世界の自動車産業で「xEV」が急成長していることがある。

 そもそも、パワー半導体は、同じ半導体でも演算や記憶に携わるマイコンやメモリとは異なり、電源の制御や電力の供給などを担う。マイコンやメモリがシステムの頭脳だとすれば、パワー半導体は神経や筋肉といったところだろうか。

 そんなパワー半導体の中でも、SiCやガリウムナイトライド(GaN)はとくに「次世代」パワー半導体と呼ばれており、その特長は、低損失で発熱が少ないことである。現在主流のシリコン(Si)製部品と比べて、同じ部品サイズであってもより高周波で動作できるため、機器の大幅な小型化と効率化が実現できる。大電力を扱うxEV関連市場において、システムの小型化や高効率な電力変換ができる次世代パワー半導体への期待は大きい。

 実際、すでにその兆候は現れており、市場調査会社の富士経済が昨年6月に発表した「2019年版 次世代パワーデバイス&パワエレ関連機器市場の現状と将来展望」によると、 SiCパワー半導体の2018年の市場規模は前年比41.8%増の390億円と報告されている。さらに2025年頃には大衆車でもSiCが採用されると予想し、2030年には2018年比10.8倍の4230億円にまで伸びると見込んでいるのだ。

 ちなみに同調査では、GaNパワー半導体は2030年には1085億円、 酸化ガリウム系パワー半導体は1542億円に達すると予想しており、いずれも急成長が見込まれてはいるものの、SiCにはまだ及ばない。今後十年のパワー半導体市場ではSiCが主流となりそうだ。

 また、フランスの市場調査会社Yole Developpementも、SiCパワー半導体の市場が2018年から2024年の間、年平均成長率29%で成長し、20億米ドルに達するという予測を発表している。同社の調査でもxEV車載分野がSiCパワー半導体市場を牽引すると見ており、とくに住宅のAC電源や充電ステーションのコンセントなどからバッテリを充電するために不可欠なオンボードチャージャーを中心に採用が進み、2024年には同市場全体の49%を占めるとみている。

 しかも、世界的にみると、自動車の電動化はまだまだ始まったばかりだ。日本では現在、新車販売台数の30%以上がxEVといわれているが、他国をみてみると、アメリカが4%、フランスでも4.8%と、まだ普及途上であることが分かる。

 今回発表されたローム社とSTマイクロエレクトロニクス社のように、海外企業との協力体制が活発になってくれば、xEV先進国である日本は世界の自動車市場で大きなアドバンテージを得ることになるだろう。(編集担当:藤原伊織)

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