長期記憶の痕跡は脳の複数部位に残される 理研の研究
2019年12月22日 10:37
理化学研究所(理研)は18日、大脳皮質と海馬とのあいだで生じる相互作用が記憶痕跡を活性化させることで、形成後長時間を経た記憶の想起が可能になっていることを発見したと発表した。
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■諸説ある長期記憶の想起
脳はさまざまな記憶を数カ月、数年単位で保てるが、時間が経つにつれ、記憶は形成された脳部位から別の部位へと移ることが知られている。なかでも、過去の体験についての記憶については諸説ある。
記憶が形成されたのち海馬に保存された記憶が、時間とともに大脳皮質へと移る説が数十年にわたり支持されてきたが、一部は海馬に残るという報告も多く存在するという。そのため、海馬と大脳皮質の役割や2つの部位間の情報伝達については不明な点があった。
理研の研究グループは、電気ショックを与え恐怖を記憶させたマウスで実験を実施した。古い記憶を想起する際の大脳皮質と海馬の活動を記録し、両部位間の電気生理学的な相互作用を調査したという。
その結果、前頭部の大脳皮質(前帯状皮質)と内側側頭葉の海馬で、複数の脳波の同期が確認された。この複数の脳波の同期が、古い記憶を想起させる可能性があるという。
■脳波から短期記憶と長期記憶の区別も可能
研究グループはまた、機械学習により両部位での同期信号を周波数ごとに解析した。その結果、想起していた記憶が短期記憶か長期記憶かを正確に判定することに成功した。記憶が形成された時期が不明でも、脳活動を調べることで形成時期が推定可能になったという。
本研究成果により、古い記憶を想起する際には、大脳皮質や海馬など複数の脳部位に痕跡を残す説が有力であると、研究グループは結論づけている。
今後は、各脳部位で記憶のどの側面が保持されるかや、脳部位間の脳波の同期などをさらに調査することで、記憶を想起するメカニズム解明につながることが期待される。
研究の詳細は、米科学誌Cell Reportsにて18日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)