日韓GSOMIA、元統合幕僚長の岩崎氏「何の実質的効果が得られない状態」
2019年12月4日 15:00
*15:00JST 日韓GSOMIA、元統合幕僚長の岩崎氏「何の実質的効果が得られない状態」
韓国政府は11月23日、「日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)」の効力が失効する数時間前に凍結を宣言した。韓国は本年の8月に日韓GSOMIAにつて破棄を宣言していた。その後、この協定は協定で定められているとおり猶予期間に入っていた。11月23日に猶予が切れる間際に、韓国は執行停止を解除したのである。では、これで日韓の秘密軍事情報は8月以前どおりになったのか?回答は「否」である。形式的に期限が伸びているだけで何の実質的効果が得られない状態で、全く喜べない状況である。彼らの目的はなんだろう?
まず「GSOMIAとは何か?」について述べる。GSOMIAとはGeneral Security of Military Information Agreementの略であり、所謂「軍事情報に関する包括的保全協定」と和訳されている。同盟国等との2国間あるいは複数国間で秘密軍事情報を提供し合う協定であり、その際、第三国への漏洩を防ぐ為に結ぶものである。現時点で我が国は米国やNATO、豪州等7ヶ国と協定を結んでいる。因みに米国は60ヶ国以上、韓国は20ヶ国以上と協定を締結している。
日本と韓国の間のGSOMIAの締結は2012年6月29日に結ばれる寸前まで漕ぎつけたものの、締結の数時間前に急遽「延期」が宣言され、再度締結の交渉を重ねた結果、それから4年後の2016年11月23日ソウル国防部で署名された。
この協定は日米韓三ヶ国の連携を更に深化させるものであり、北朝鮮対応等の北東アジアの安全保障を考慮すれば極めて重要な協定である。日本と韓国の間では、これまで例えば、韓国側は北朝鮮のミサイル発射情報やヒューミント情報を、日本側が哨戒機や偵察衛星で収集した写真等を交換しており、極めて有効に機能していた。これは我が国にとってばかり有益なわけでなく、当然韓国側でも有益な情報を入手できる重要な協定である。
この協定は基本的には毎年自動更新されると規定されているものの、もし更新しない場合には更新日の90日前までに相手方へ通知する事とされている。ところが、昨今の日韓関係の悪化(昨年の旭日旗問題、日本の2社に対する徴用工問題、レーダー照射問題、ホワイト国=グループA除外)等からか、韓国政府は今年8月23日(期限は8月24日)、当協定を更新しない旨を公表し、我が国政府に通知してきたのである。GSOMIAは安全保障問題である。韓国政府は徴用工等の問題とこのGSOMIAを同等に扱い、日本政府に圧力をかけてきたのである。しかし、我が国政府の考え方は明確である。このような韓国の対応に全く動ずることなく、それぞれの問題は独立して解決すべきとの基本姿勢を全く崩していない。徴用工問題は日韓請求権の問題であり、レーダー照射事件は重大な防衛問題であり、ホワイト国問題は韓国の輸出管理の問題である。
そして、ここにきて今回は失効間際の11月22日に協定停止の回避を宣言したのである。基本的にはこの日韓のGSOMIAは重要であり、その継続は好ましい事ではあるが、韓国の真の意図は奈辺にあるのだろうか?もし仮に今回の停止回避措置が、他の問題等と関連するものであるなら、例えば、「今回、韓国がGSOMIAに関し日本側の要望に応えたのだから、徴用工に関して、ホワイト国に関して、日本側の譲歩があってしかるべき」という意図があるのであれば、考え方に乖離があるといわざるを得ない。
我が国は「これはこれ。あれはあれ。」で解決すべきと考えている。この件に関しては、この考え方は安倍総理大臣から各省庁の公務員まで基本的に共有されて考え方である。これまでが国は、何度となく韓国側の時として理不尽と感じる要望に応えてきており、結果的に韓国大統領が変わる度、毎回謝罪をしてきた。ある意味では、そのような韓国にしてきた責任は我が国にあるかのかもしれない。
安倍総理大臣と朴槿恵大統領とで結んだ慰安婦に関する「日韓合意」には、今までの教訓から「不可逆的」との言葉が盛り込まれている。これは、また同じことを再燃させないために盛り込まれたものである。これは今までのことをすべて忘れるとの意味ではなく、今後はこのような合意に基づきこれ以上の関係を構築していきたいとの思いで盛り込まれたものである。しかし、3年もたたないうちに、「あれは一部の元慰安婦のことだけで全く意味のない合意だった」と韓国議会議長が述べている。この様なこともあろうかと考え、二度と後戻りしないとの決意で「不可逆的」との文言を入れたのである。
韓国は我が国にとり隣国であり重要な国であることは事実である。今後もこのことは変わらない。最近の不透明・不安定さを増す我が国周辺の安全保障環境を考慮すれば、我々は後ろに戻るのでなく、前に進む必要がある。韓国の今後の前進に期待する。(2019.11.28)
岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。《SI》