胃の粘膜産生タンパク質が肝細胞癌を予防 ハイリスク患者の治療に期待 名大の研究
2019年12月2日 19:28
肝細胞癌は、肝臓に発生する悪性腫瘍であり、完治するには外科的切除による治療が必要だ。しかし多くの肝細胞癌は、肝炎や肝硬変などを伴っており、肝機能が落ちているため、切除が行えない場合も少なくない。そのため癌の発生を予防することが重要と考えられているが、名古屋大学の研究グループは、胃の粘膜で産生されるタンパク質TFF1が、肝細胞癌の発生を抑えることを明らかにした。
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本研究は、名古屋大学大学院の梛野正人教授と落合洋介大学院生、同大医学部附属病院の山口淳平助教らのグループによるもの。
肝細胞癌の原因として、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスへの持続的感染、アルコールや過食による脂肪肝が知られている。肝細胞に慢性的な炎症(肝炎)がおこり細胞が壊れ、繊維質が埋めていくことで肝臓は硬くなり、機能も低下していく。この状態が進んだものを肝硬変という。このように細胞が壊れては再生するなかで癌細胞が発生する。
研究グループは、胃癌の発生を抑えるタンパク質TFF1に注目した。TFF1は粘膜組織から分泌されるタンパク質で、粘膜を保護する働きを持っており、最近の研究では膵臓癌を抑える働きも明らかになってきている。
まず、手術で取り出したヒトの肝臓癌の組織を免疫組織化学染色によって調べた。するとTFF1を産生する癌組織では細胞分裂の異常な活性化がおこっていなかった。また癌細胞ではTFF1発現を促すDNAの部位に異常なメチル化がおこっており、TFF1の産生が抑えられていた。これらよりTFF1が癌を抑制する役割を果たしていることが示された。
次に、肝細胞癌由来の培養細胞にTFF1遺伝子を導入し発現させた。すると、その増殖スピードは落ち、アポトーシスという異常な細胞を除去するための細胞死を起こすようになることがわかった。このようなTFF1の抗癌効果は、βカテニンの活性を抑えたことで生じることが明らかになった。βカテニンは肝細胞癌の発生に関与しているとされているタンパク質である。
また、肝細胞癌を自然に発生するよう遺伝子改変されているKCマウスを用いて検討した。通常のKCマウスは、生後約1年で小さな肝細胞癌が出現した。しかし、KCマウスのTFF1を除去したノックアウトマウスでは、半年で肝細胞癌が発生し、生後1年にはほぼすべて巨大な癌になっていた。つまりTFF1がKCマウスの癌の発生や進行を抑えていることが示された。
さらに癌細胞にTFF1をタンパク質として与えることで発癌を抑制することも明らかにした。つまり肝硬変などの肝細胞癌ハイリスクな患者にTFF1を薬剤として投与することで、治療できる可能性を示している。今後、予後が悪いことでも知られている肝細胞癌を予防する治療法が実用化していくことを期待したい。
研究の成果は、11月16日にHepatologyのオンライン速報版に掲載された。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)