障がい者雇用にも新しい道 産福連携の事業モデルが横浜市でスタート
2019年12月1日 23:19
内閣府の調査によると、日本の障がい者数の概数は、身体障がい者436万人、知的障がい者108万2千人、精神障がい者392万4千人。この中には、複数の障がいを併せ持っている人もいるので単純な合計にはならないものの、数字上だけでみると国民のおよそ7.4%が何らかの障がいを有していることになる。
そんな中、障がいを持つ人たちの雇用について、関心が高まっている。障がいを持つ人たち自身はもちろん、超高齢化社会に突入した日本のこれからにとっても、障がい者雇用の促進は一層の充実を図るべき課題だ。障害のある人も、能力や適性を十分に活かし、障がいの特性等に応じて活躍できることが、より良い社会をつくることに繋がっていく。
政府も2018年4月に「障害者雇用促進法」を改正し、企業における障がい者の雇用率を引き上げるなどしており、実際にその効果も挙げている。しかしながら、企業の中で充分な活躍ができているかといえば、必ずしもそうとはいえないようだ。障害者雇用促進法に則って採用数は増やしてみたものの、互いのコミュニケーション不足などで悩みを深めているケースも珍しくない。これを打開するためには、官民、そして福祉まで一体となった施策が必要なのではないだろうか。
例えば、木造注文住宅を手がける株式会社アキュラホームが11月7日に横浜市及びヨコハマSDGsデザインセンターと連携して行うことを発表した事業モデルが面白い。
同社は、近年国際的な問題になっている「海洋プラスチック汚染」を解決する一つの方法として、木造住宅建築で用いるカンナ削りの技法を応用し、プラスチックに代わる「木のストロー」の量産に世界で初めて成功。G20大阪サミットやG20関係閣僚会議内でも採用されたことで、一躍注目を集めているが、その「木のストロー」の地域での生産モデルを構築する際に、廃プラ問題だけでなく、障害者雇用の問題までクリアにしてしまおうというのだ。
具体的には、山梨県道志村内の横浜市保有する水源林の間伐材を原材料とし、横浜市内企業の特例子会社等で障がい者たちを中心に横浜産カンナ削りの「木のストロー」の生産を行う。しかも、製造された木のストローは19年12月1日から、横浜市内のホテルをはじめ、市内の店舗・飲食店で広く普及・拡大を進めていく。また、成田空港内での使用に向け、株式会社NAAリテイリングと調整を始めているという。この生産モデルが成功すれば、横浜市以外にも名乗りを上げる自治体も増え、障害者雇用の促進に大きく貢献することになるだろう。
また、大阪府泉南市では、コクヨグループの特例子会社であるハートランド株式会社が大阪府の指導と、地元農家、障碍者就労支援団体等の協力のもと、障がい者の安定した就労の場として、ほうれん草など葉菜類の水耕栽培事業を2007年から行っている。
農業を障がい者が活躍できる場にすることで、安心・安全・美味しい野菜の提供とともに、働き手不足や耕作面積の減少など、多くの問題を抱える日本の農業の復活にも貢献する事業として注目されている。この事業モデルは全国的にも広がりを見せており、同社に追従する企業や団体も増えていることから、今後も発展が期待できそうだ。
農業だけでなく、同様の問題を抱える漁業の分野でも、障がい者の活躍は始まっている。鳥取県米子市にあるNPO法人ライヴでは、漁師から乾燥ワカメの商品づくりの一部を依頼されたことをきっかけに、漁業者と連携して水産物の加工販売を開始。その後、作業施設、水産物加工設備を設置して事業を拡大し、ワカメのほか、めかぶ、もずく、あおさなど数種類の海藻の加工品を独自で生産している。また海藻だけでなく、同県の名物で、高級料亭の刺身にも使われる「白イカ」が旬を迎える夏の時期には、イカの内臓を取り除く下処理作業など、地元の漁業と密に連携した活動を行うこともあるという。
農業や漁業だけでなく、アキュラホームの生産モデルのように、障がいを持つ人たちが活躍できる場はもっと他にもあるだろう。障がい者も自社にとっての貴重な人材と考えると、障害者雇用促進法で規定されるまでもなく、採用数も増えるだろうし、障がい者だけでなく、日本の社会全体も豊かになるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)