東工大と東大、全固体リチウム電池応用の多値記録メモリ開発 エネルギー消費50分の1に
2019年11月23日 09:50
東京工業大学は21日、全固体リチウム電池を応用した情報メモリ素子を開発したと発表した。消費エネルギーの低減と多値記録が実現されることで、コンピューターの進化を後押しするとみられる。
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■将来の蓄電池として期待される全固体電池
従来のリチウムイオン電池に代わる蓄電池として期待されるのが、全固体電池だ。従来のリチウムイオン電池を構成する電解質は、原因の液漏れや発火、爆発の原因となった。全固体電池は古来材料のみから構成されるため、これらの問題を回避するとして注目されている。
東京工業大学と東京大学の研究者から構成されるグループは、全固体電池の構造から記憶素子(メモリ)を実現する着想をえた。充電状態と放電状態とを2値に対応させることで、記憶素子への応用が可能だ。
また正負双方の電極体、固体電解質の3層から構成される全固体電池は、正極電極体にリチウムイオンが出入りすることで、電池の電圧(開放端電圧)が変化する。この性質を利用し、電池の電圧を変化させることで多値に対応したメモリへと応用が可能になる。
難点は、全固体電池には電池容量が大きいことが求められるのに対し、記憶素子は消費エネルギーの小さくて済む小電池容量が求められる。そのため、消費エネルギーの低い正極電極体の材料選択が課題だった。
■従来比で50分の1の低消費エネルギーが実現
研究グループは、正極電極体の材料としてリチウムと合金を形成しないニッケルを選択した。ニッケルの上に固体電解質と負極電極体のリチウムの薄膜双方を形成することで、積層構造のメモリ素子を作製した。ニッケル電極上に酸化ニッケルが形成されることで、小容量の電池として動作することが確認された。
現行のDRAMと比較しても50分の1程度の消費エネルギーであることも実験より明らかになった。また電圧状態を変化させることで、3値記録メモリとしても動作することが確認された。これにより、記録の高密度化が可能になる。
研究グループによると、記憶素子が消費するエネルギーの低減や記録の高密度化はコンピューターの省エネルギー化に不可欠だという。今後は、電池容量をさらに減らすことで、エネルギー消費が高くなると予想される脳型コンピューターへの応用も期待されるだろうとしている。
研究の詳細は、米化学会誌ACS Applied Materials and Interfacesにて20日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)