iPS細胞のがん化を防ぐ仕組み解明 安全性向上に期待 東工大

2019年11月20日 20:14

 東京工業大学の研究グループは18日、iPS細胞において、遺伝子を安定化し、がん化等を防ぐ仕組みを解明したと発表した。今後さらに研究を進め、再生医療の進展に貢献したい考えだ。

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■iPS細胞とがん化のリスク

 iPS細胞を作成するためには、いくつか遺伝子を組み込まなければならない。そのためiPS細胞には常にがん化のリスクがつきまとう。通常の細胞の場合、遺伝子が傷つくと、次のようにして遺伝子を安定化し、がん化等を防いでいる。

 ・傷ついた遺伝子を修復する
 ・それ以後の細胞分裂を停止する
 ・アポトーシス(プログラム細胞死)する

 では、iPS細胞の場合はどうだろうか?iPS細胞の安全性を高めるためには、iPS細胞がどのようにして遺伝子を安定化しがん化等を防いでいるのか、その仕組みの理解が欠かせない。しかし、これまでiPS細胞におけるその仕組みについてはよく解っていなかった。

■放射線に対するiPS細胞の遺伝子応答を測定

 そこで研究グループは、通常の細胞、iPS細胞、神経幹細胞(iPS細胞から作成)の3種類の細胞にガンマ線を放射した後、次世代シークエンサーという装置を使い、どの遺伝子がどの程度活性化しているかを調べた。

 その結果iPS細胞では、遺伝子を安定化する働きのある、DNAの修復や細胞周期チェックポイント、アポトーシス等に関する遺伝子が、通常の細胞よりもより活性化していた。ちなみに細胞周期チェックポイントとは、細胞分裂が正常におこなわれるように遺伝子の異常等をチェックするポイントをいう。 

 ただし、「CDKN1A」と呼ばれる遺伝子については、iPS細胞の方が通常の細胞よりも活性化の程度が極端に低かった。

 「CDKN1A」には、遺伝子に傷がある場合に細胞分裂を一時停止する働きがある。通常の細胞の場合にはその間に遺伝子の修復がおこなわれる。これに対してiPS細胞の場合には、遺伝子に細胞分裂を停止しなければならない程の傷がある場合には、直ちにアポトーシスが誘導されるということになる。

 また、神経幹細胞と比較した場合には、iPS細胞と神経幹細胞のどちらの遺伝子がより活性化しているかは、遺伝子によってバラバラだった。これはiPS細胞が神経幹細胞に分化したことによって、神経幹細胞として必要な遺伝子だけが活性化したためと考えられる。

 以上から研究グループでは、iPS細胞においては、通常の細胞よりも、DNAの修復や細胞周期チェックポイントに関する遺伝子の活性をより高め、また、アポトーシスをより積極的に誘導することによって、遺伝子を安定化しがん化等を防いでいると考えられるとしている。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

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