NASA、探査ローバーで火星の大気組成を解明 謎が残る酸素量の変化
2019年11月17日 18:10
火星に生命は存在したのかは長年のテーマだ。ほかの太陽系惑星と比較すると火星の環境は地球に近く、惑星探査の対象にも数えられる。また、実業家イーロン・マスク氏が将来の移住計画を企てるなど、火星環境への深い理解が求められている。米航空宇宙局(NASA)は、運用中の火星探査ローバー「キュリオシティ」で、火星中の大気に含まれる気体の組成を明らかにした。季節変動ととも酸素量が変化するものの、その原因が謎だという。
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■温暖期に30%増加する火星の酸素量
約6年にわたるキュリオシティの調査により、火星大気中の気体の組成が判明した。95%が二酸化炭素であり、窒素、アルゴン、酸素、一酸化炭素の順で並ぶ。これらの気体の割合は季節ごとに変化することも判明した。
冬になると極域では二酸化炭素が氷へと変化することで、大気の圧力が低下する。その結果、圧力の平衡状態を維持しようと気体の組成が変化するという。一方春や夏といった温暖時期になると、二酸化炭素の気体化による圧力上昇で、再度気体の組成が変化する。
研究者を悩ませているのが、酸素の量だ。当初酸素量に変化はないと予想されたが、温暖時期には30%増加することが判明した。火星内のゲール・クレーターに少量存在するメタンガスと酸素の変化量が相関することも明らかになった。メタンガスもまた温暖期には60%増加するという。
■生物学的にも地質学的にも説明困難な謎
研究者らは、生物学と地質学の両面から酸素量の増減の謎を解明しようとした。だが生物学的説明を裏づけるような生物活動は火星で発見されていない。では地質学的説明は可能か。火星の土壌に豊富に含まれる過酸化水素や過塩素酸塩が酸素量の増減に反映する可能性が、候補として考えられるという。
現在運用中のキュリオシティには、土壌からの酸素の放出を調べる装置は搭載されていない。ただし、1976年に火星に到達したバイキングは、熱などにより火星の土壌から酸素が解放されることを明らかにした。だが温暖時期とはまったく異なる条件下だったため、酸素量の減少を説明できないという。また、土への高エネルギーの放射による酸素生成の可能性も考えられるが、100万年単位であるため今回のような季節変動による酸素量変化を説明できない。
「酸素量の増加プロセスを突き止められなかったが、季節ごとに変化する火星地表の何かと関係すると予想される」と、メリーランド大学の研究者であるティモシー・マコノキー氏述べている。
研究の詳細は、米地球物理学誌Journal of Geophysical Researchにて12日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)