発達障害・自閉スペクトル、嗅覚脳波に差異 支援の手掛かりに 東大らの研究

2019年11月12日 09:08

 ASD(自閉スペクトラム症)は、社会性の欠如やコミュニケーション障害、興味の限定などの症状を呈する神経発達障害として知られ、かつて広汎性発達障害と呼ばれていたものであり、自閉性障害、アスペルガー障害などと独立して呼ばれていたものが2013年改訂の米国診断マニュアルで統合されたものである。近年話題となっている注意欠陥障害や多動症などの発達障害とは区別して扱われるのが一般的なようだ。

 ASD罹患率は 59 人に 1 人程度と希ではない障害で世界的な社会問題となっている。13 年に改訂された診断マニュアルで嗅覚過敏など特異的感覚特性が診断基準の一つに取り上げられたこともありASDの嗅覚などの感覚特性に注目が集まっている。嗅覚を含めた感覚の問題は情動・行動や運動・行為の問題に影響し、ASD者にとって実生活の中で抱く困難の本質とも考えられ、感覚特異性を理解することは、より適切にASD者の支援を行う上で重要であると考えられる。

 5日、東大と国立精神・神経医療研究センターのグループが高密度脳波計測を用いた嗅覚誘発脳波の実験研究を実施しASD者と健常者における匂いを嗅いでいる際の脳活動の時間的・領域的違いを解明したことを公表した。

 東京大学大学院農学生命科学研究科の岡本特任准教授らは14名のASD者と19名の健常者の匂いに対する嗅覚誘発脳波を比較し、匂い呈示後542ミリ秒以降の時間的に比較的後期の処理において違いが認められることを確認した。

 またその違いは、楔部や後帯状皮質と呼ばれる部位での嗅覚以外の感覚刺激の処理にも関与する脳領域の活動の違いに由来することが推定でき、この結果からASD者の嗅覚処理では脳における高次の認知処理に違いがある可能性が示唆された。

 ASD者の嗅覚特性については、これまでに当事者や家族を対象としたアンケート調査などで、ASD者の嗅覚特性は健常者と異なることが報告されている。研究チームは、本研究によって脳波検査においても異なる結果が得られることが明らかになったことで、今後ASD者の病態について理解が深まるとともに、より適切な支援の足掛かりとなることも期待されると評価している。(編集担当:久保田雄城)

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