NIMS、全固体電池の高容量化に新手法 シリコンナノ粒子で高出力な負極電極体

2019年11月10日 20:15

 電気自動車等への用途として注目される次世代の蓄電池「全固体電池」。安全性の高い全固体電池の大型化やコスト減が大量生産へとつながる。物質・材料研究機構(NIMS)は7日、市販されたシリコンナノ粒子により、高い出力を示す全固体電池の負極電極体を実現したと発表した。

【こちらも】TDK、日立造船の全固体電池実用化へ 中国・CATLは疑問を呈す

■高価な全固体電池

 吉野彰氏ら3名が2019年度のノーベル化学賞を受賞した理由が、リチウムイオン電池の開発だ。充電可能な二次電池としても役立ち、ノートパソコンや電気自動車等に利用されている。

 リチウムイオン電池は正負の電極や電解質から構成されている。電解質として六フッ化リン酸リチウム等の電解液が用いられているが、液漏れや発火、爆発による危険性をもつ。そのため、負極や電解質、正極すべてが固体からなる全固体電池が、安全性などの観点から注目されている。

■簡便かつ大量生産可能な作製方法を確立

 全固体電池を構成する負極電極体として従来用いられてきたのが、寿命の長い黒鉛だ。これに対し、シリコンは次世代の材料として注目されている。黒鉛と比較し理論容量密度が約11倍と高容量なだけでなく、半導体という性質から大きな火災へと至らない高い安全性をもつ。そのため、電気自動車への応用が期待されている。

 その一方で、シリコンによる負極電極体を作製する「気相法」と呼ばれる従来手法は、高い出力特性をもつ反面、高い真空を要した。そのため高価で、大面積化が困難なため大量生産が難しいという問題があった。

 NIMSの研究グループが低コストで高生産性を期待できる作製法として着目したのが、スプレー塗工法だ。材料には、特殊な発光現象を示すことからディスプレイや太陽電池等への応用が期待される量子ドットの一種、シリコンナノ粒子が用いられる。

 シリコンナノ粒子の液を大気下でスプレー塗布すると、簡便に負極電極体が作製可能だという。スプレー塗工法を用い負極電極体を作製した結果、高い電気特性を示すことを研究グループは発見した。

 研究グループは今後、同手法によりシリコンナノ粒子電極体の充填量を増やし、全固体電池の大容量化に向けて開発を続けるとしている。

 研究の詳細は、米化学誌ACS Applied Energy Materialsにて9月24日にオンライン掲載された。(記事:角野未智・記事一覧を見る

関連記事

最新記事