傷害された植物の細胞がリプログラミングされる仕組みを解明 理研
2019年11月7日 09:21
理化学研究所(理研)らの国際共同研究グループは4日、植物が傷害を受けた場合にその細胞がリプログラミングされる仕組みを分子レベルで解明したと発表した。研究グループでは、この研究成果は有用植物の増産や育種等につながるのではないかと期待している。
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■リプログラミングとは?
植物は切断等傷害を受けると、その部分にカルスと呼ばれる塊ができ、そこから、茎、葉、根等が再生する。例えば、茎を切断すると、根が生えてきたりする。いわゆる挿し木はこのような植物の旺盛な再生力を利用したものだ。
ただ通常、茎の細胞が根の細胞になることはない。しかし上述の場合には、一度分化した茎の細胞が脱分化して、根の細胞に変化する能力を獲得する。これを「リプログラミング」という。
カルスはいわばリプログラミングされた細胞の塊といえる。
このリプログラミングにはWIND1、RAP2.6L等さまざまな遺伝子が関係している。しかし、これまで関係する遺伝子がどのようにして活性化されるのかについては解っていないことも多かった。
例えば、DNAは核内にグチャグチャに詰め込まれているのではなく、多数のヒストンと呼ばれるたんぱく質にきちんと巻き付けられて収納されている。だがヒストンにアセチル基が付加されて、ヒストンがアセチル化されると、この巻き付きが緩み遺伝子が活性化しやすくなる。
しかしこれまで、上述したリプログラミングに関係しておこる遺伝子の活性化と、このヒストンのアセチル化の関係はよく解っていなかった。
■植物の傷害誘導性リプログラミングにはヒストンのアセチル化が必要
そこで研究グループは、RNA次世代シーケンス解析とクロマチン免疫沈降シーケンス法と呼ばれる2つの方法を使い、傷害の前後における、遺伝子の活性化の状況とヒストンのアセチル化の有無を調べた。
するとその結果、活性化したWIND1の遺伝子領域では傷害前から、活性化したRAP2.6Lの遺伝子領域では傷害後に、それぞれヒストンがアセチル化されていたことが解った。そこで、ヒストンをアセチル化する酵素、HAG1とHAG3の働きを抑制してみたところ、リプログラミングが抑制された。
こうして研究グループは、HAG1、HAG3等によって、WIND1、RAP2.6L等の遺伝子領域でヒストンがアセチル化されることが、傷害誘導性のリプログラミングに必要であることを突き止めた。
最近、東洋医学の人気が高まっているが、漢方薬に使われる薬用植物には挿し木等によって増やすことが難しいものが多い。しかし、このような薬用植物も今回の研究成果を応用すれば、挿し木等で増やせるようになる可能性がある。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る)