統合失調症に脳内の硫化水素の過剰な生成が影響 理研などの研究
2019年11月1日 18:47
理化学研究所(理研)は10月28日、脳内で生み出される過剰な硫化水素が統合失調症に関連することを突き止めたと発表した。
■1%の発症率をもつ統合失調症
精神疾患のひとつである統合失調症は、人口の約1%という高い発症率をもつ。思春期から壮年期にかけて発症し、幻覚や妄想、感情の平板化、うつ等の症状や、認知機能の低下が患者から確認される。
統合失調症の治療の主流が、神経伝達物質であるドーパミンの作用を抑える薬剤の投与だ。だが治療効果は不十分なだけでなく、次第に重篤化するケースも多くみられる。そのため、統合失調症の発症メカニズムの理解や、それに基づく治療法と予防法の開発が課題となっていた。
■妊娠中の母体の疾患が原因か
理研、山陽小野田市立山口東京理科大学、福島県立医科大学、東京大学などの研究者から構成されるグループは、統合失調症に類する形質をもつマウスと、正常なマウス脳内のタンパク質の機能や量を網羅的に調べた。
その結果、統合失調症に関係するマウスの脳では、硫化水素を生み出す酵素のひとつが多く発現していることが判明した。この酵素の遺伝子を各マウス内で操作した結果、酵素によって生み出される硫化物の過剰蓄積が、統合失調症の発症の際にみられる生理機能の低下につながることが判明。同様の結果は、統合失調症患者の死後脳からも確認された。
研究グループはまた、硫化水素を生み出す酵素が増える原因を精査した。その結果、妊娠9週目から出生後7日までのあいだに母体で起きた合併症やウイルス感染により、酵素遺伝子の発現が増加するようプログラムされることを突き止めた。
研究グループによると、硫化水素を生み出す酵素を阻害する薬剤の開発が課題だという。今後は、現象のメカニズムを詳細に探究することで、創薬実現に近づくだろうとしている。
研究の詳細は、ヨーロッパ分子生物学機構の科学誌EMBO Molecular Medicineオンライン版にて10月28日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)