超精密「原子核時計」への鍵を握るトリウム229アイソマーの生成に成功

2019年9月13日 12:30

 超精密な原子核時計の実現や宇宙膨張の謎の解明など、基礎物理研究の鍵の一つとなっているのがトリウム229という原子である。岡山大学、産業技術総合研究所などの共同研究グループは、そのトリウム229の人工的な励起(アイソマー)状態の生成に成功したと12日に発表した。この研究成果は11日付のNature誌上で公表されている。

 トリウム229は、全ての原子核の中で最小の励起エネルギーを持つと言われている。そのため、理論的にはレーザーを用いた励起が可能な唯一の原子核であるとされてきた。これはレーザーとトリウム229を組み合わせて高精度な「原子核時計」を作ることが可能になることを意味する。

 「原子核時計」は、現在原子時計として用いられているセシウム原子を用いたものよりも制度が高いことが期待されている。また、トリウム229のアイソマーは暗黒物質、物理定数の経年変化などの探索プラットフォームとしても活躍すると期待されている。

 しかし、トリウム229のアイソマー状態の研究は、40年以上の歴史を持つにも関わらずその生成には成功してこなかった。この理由としては、トリウム229のアイソマー状態の生成には放射線を伴う複雑な過程が必要であることが挙げられる。

 レーザーで励起可能であるのはあくまで理論上の話であって、実際にはその方法での励起には成功していない。過去の実験では主に放射性の有るウラン233からの崩壊を用いて行われてきた。

 今回の研究では、大型放射光施設「SPring-8」を用いてクリーンな環境下でトリウム229のアイソマー状態の人工的な生成に成功した。図のように、高エネルギーなX線を用いて別の励起状態を経由させてからアイソマー状態を作り出したのがポイントである。

 トリウム229のレーザーによるアイソマー状態の生成を実現するためにも、まずはその性質を知ることが必要である。そのためには、対象物であるトリウム229を大量に用意することが求められる。今回の研究の意義は、そのトリウム229を人工的に大量かつ自在に生成する方法を見つけたことにある。

 岡山大学、産総研らの共同研究グループは、アイソマー状態から基底状態への光遷移の観測を今後の目標に掲げている。これによって、これまで不明だった正確なアイソマー状態への励起エネルギーを決定することが可能になる。そこから、レーザーによる励起や高精度原子核時計の実現などへの糸口が拓けると期待できる。

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