遺伝子スイッチ検出の新手法開発、ゲノム治療やがんの解明へ新たな一歩 理研など
2019年9月12日 12:07
がんの発生メカニズムの解明やiPS細胞を用いた治療において鍵となるのが、「エンハンサー」と「プロモーター」である。両者はともに細胞が分化して様々な機能を持つようになる段階で遺伝子を制御する「遺伝子スイッチ」としての機能を持つ。
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理化学研究所、京都大学らの共同研究グループは6日、そのエンハンサーを高感度で検出し、活性度を測定する技術を新たに開発したと発表した。この研究成果は3日にNature Genetic誌で公表されている。
エンハンサーにはさまざまな病気の発症に関連があるとされている「ゲノム変異」が高度に濃縮されている。そのため、細胞の変異による病気発症の秘密が隠されていると考えられてきた。
また、エンハンサーはiPS細胞を移植した後の、細胞のがん細胞化などの懸念とも関連があるとされてきた。しかし、エンハンサーがヒトゲノムのどこにどれだけの数が存在するか、活性化がどうやって生じるかは不明であった。
そこでエンハンサーを高感度かつ効率的に検出する手法の確立が急務とされてきた。しかし、従来のChIP-Seq法やCAGE法といった方法では、高感度な検出が不可能であった。そこで今回、共同研究グループは従来のCAGE法の技術的な問題点を解決した手法を開発し「NET-CAGE法」と名付けた。
NET-CAGE法は、エンハンサーが高い割合で含まれているNascent RNAと呼ばれる新しく合成されたばかりのRNAに着目した手法である。エンハンサーは半減期が短く不安定なことが特徴であるが、合成されたばかりであれば消失する前のエンハンサーを高濃度で取得できる。
さらに、Nascent RNAを迅速かつ高感度に回収する生化学的な手法も同時に開発することで、エンハンサーの検出濃度を飛躍的に向上させることに成功した。今回の研究では実際にNET-CAGE法を使用した人のガン細胞株の解析も行われている。
その結果、代表的な5種類のガン細胞に存在する約3万種類のエンハンサーを同定することに成功した。
今回の研究の成果は次世代のゲノム医療に関する新しい知見を与えうるものであり、iPS細胞などの医療技術の進展に大きく貢献すると期待される。また、がんの発生や維持についての根源的なメカニズムの解明にも一役買うと考えられる。